呪いの藁人形

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     一  由伸は工業高校を出てから独り立ちして正社員として或る町工場で働くようになって4年が経った。  地道に地道にこつこつとがモットーのように只管真面目に働いて昇給を勝ち取って来た。  と言っても所詮、プロレタリアートのことだから微々たるものだ。  で、少しでも貯蓄しようと平日の晩は専ら自分が住まう借家か彼女の恵美が住まうアパートで過ごして成るべく浪費しないようにしている。  師走の或る月曜日の仕事帰りも由伸は真っ直ぐ帰宅した。  古ぼけていて狭苦しい、それが彼の住まいだった。  その借家前に恵美の車がいつもの時間通り停まったのを見て由伸は例に漏れず気分が浮き立った。 「ブー!」  呼び出しブザーが鳴った。  今時インターフォンすら備えていない時代遅れの陋屋なのだ。  だから、「はーい!」と由伸は大きな声で言いながら居間から即、玄関に移ると、勢いがらりと引き戸を開けた。  すると、恵美がいつものように夕飯の材料が入ったレジ袋を持っていないので由伸はあれっと思って言った。 「どうしたんだ?今日は買い物しなかったの?」 「そうなの。」と恵美はすげなくぽつりと呟くや、靴を脱いで上がり框に上がり、すたすたと居間へ入って行った。  炬燵に入る姿も明らかに今までとは違う冷ややかな雰囲気を漂わせているので由伸は一体全体どうしたんだ?と愈々不審になって来た。 「今日は話を付けに来たの。」  いきなりそう言われた由伸は、びっくりして言った。 「はぁ?話を付けに来た?」 「そうよ、だから兎に角、向かいに座りなさいよ」  由伸は只ならぬものを感じながら炬燵に入った。 「あのね、よっくんは今まで私にとても優しくしてくれたでしょ。」 「まあねえ・・・」 「でも、女ってね、優しくしてくれるだけじゃ満足できないの。」 「えっ?・・・」 「つまりね、飾り立ててくれないと駄目なの。」 「飾り立てる?」 「そう、例えば、これ。」と恵美は言うと、今まで見せないようにしていた左手の薬指に嵌めてあるダイヤの指輪を由伸に見せつけた。 「ど、どうしたの、それ!」と由伸が急かすように聞くと、恵美は得々として言った。 「買ってもらったの。」 「買ってもらった?だ、誰に?」と由伸がやきもきして聞くと、恵美は待ってましたとばかりに携帯を取り出して電話を掛けた。 「ふふふ、もう入って来ても良いわよ。」  すると、玄関の引き戸が開く音がしたので由伸はぎくりとして玄関の方へ目を向けると、年の頃は30くらいで自分よりイケメンで背の高い立派な身なりをした男が三和土に立っているのが分かった。  で、由伸がまたもぎくりとすると、「あの人が買ってくれたのよ!」と恵美は言うなり炬燵から出て男の方へ足早に向かって行った。 「そういう訳なの。分かった?よっくん!」と恵美は男と腕を組みながら言った。「今日限りあなたとはお別れよ!じゃあね、バイバ~イ!」  男と手を振りながらいそいそと玄関を出る恵美に対し由伸は呆気に取られ、茫然自失としてしまったので、どうすることも出来ず見送ってしまった。
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