もう一つの学校

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 ここは図書室。窓の外からは、明るい外灯の光が差し込み、室内の非常灯の光もそれに加わる。これらの光で図書室には(とばり)が下りて見えなくなった状態の一角はなく、監視カメラに姿が映る。ヴァルトトイフェルの推測は正しかったのだ。書架の陰から体がはみ出て部分的に姿が映るかも知れないが、それは賭けである。  四つん這いになった二人の姿が室内の中心付近にボウッと現れるや否や、ヴァルトトイフェルが短めの呪文を唱える。すると、彼らの姿が一瞬にして消え、図書室は元の状態になった。 「もういいよ、立ち上がって」  ヴァルトトイフェルに促されても安心できない麻弓は、頭を上げて監視カメラを探すが、そこには天井すらなく、雲はおろか、星一つない夜空に見えた。周囲はいくつもの書架が見えるも、部分的でしかない。図書室の光景を切り取ったように見える。 「お椀を伏せた形の結界だよ。中がぼんやり明るいだろ? この光がどこから来るかは、結界の構造を説明しないといけなくて、面倒だから省略。……さて、君から聞いた魔力の痕跡があった場所を中心に張ってみたけど、多少の座標の誤差はあるから気にしないで。その辺かな?」  彼が前足で指し示す先を見た麻弓は、首を横に振る。 「まさにここ」 「じゃあ、合っているじゃ――」 「違うの。ここよ、ここ。今いるところ」  麻弓がパンパンと両手で床を叩くと、下を向いた彼は「ほう」と感心して、顔を上げた。 「凄いじゃん、僕」 「はいはい」 「でもさ。他人の魔力は――感じないよね」 「まあ、今も残っていたら怖いけど」  ならばと、二人は結界の中をゆっくりと探し回る。同じ方角を探すと効率が悪いため、逆向きに探していったので、だんだん互いの距離が開いていく。  と、その時――、
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