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「あれ……? 私、さっきまで王宮で踊っていたはず……」
気がつけば、人気のない草原に寝転んでいた。
横には、綺麗な顔のお姫様が眠って……ん?
「お姫様!?」
「ん…...あ、起きた?」
「えっと、これはどういう状況ですか? 私、確かさっきまでお城の舞踏会で王子様と踊ってて……そろそろ鐘がなるからとか言って連れ出されて……というかあなたは誰ですか?」
かなり高価そうなドレスに、綺麗なティアラ……それっぽい格好をしていたからお姫様だなんて呼んでしまったけれど……
「あなたがさっき呼んだので合っているわ。お姫様よ。それでいて、あなたがさっきまで一緒に踊っていた王子様でもあるの。」
この女の子が……さっきまでの王子様?
だめだ。全く頭が追いつかない。
「妖精さんに会ってね、『あなたを、あなたが想っている人の憧れる、王子様にしてあげる。ただし、一夜だけ、鐘がなるまでね。』って言ってくれたの。あとはあなたの家にちょっぴり圧をかけて、あなたが舞踏会に来れるようにして完成。」
「え……え? 妖精さんに会ったの? それに、うちに圧って……確かに今日はお母様たちが変に優しくて、舞踏会にも来れたけど……でもどうして私なんかにそんなことを?」
そう……私は王子様に憧れて、ずっと舞踏会に行きたいと思っていた。けれど、お義母様たちは私のことをよく思っていないで、いつもあまり好きにはさせてもらえないものだから、てっきり今回も行かせてもらえないものだと諦めていた。それがこのお姫様のおかげだとして、いったいどうして私なんかにそこまでする理由があるのだろう。
「まあ、細かいことはいいじゃないの。それより、さっき言ったことは変わらない?」
「さっき……言ったこと?」
「ほら、王宮で踊っているときに、私とその……」
王宮で……踊っているとき……あの時確か、憧れの王子様と話せて、王子様は憧れよりも人間じみていて、でも憧れよりもずっと素敵で……それで、王子様も私のこと気に入ってくれてそれで……
「……恋人になってくれるって、今でもそう言ってくれる?」
「え……」
そうか。あの王子様は、彼女だったんだ。
「私はもう王子様じゃないけれど……それでも、恋人になってくれる?」
月の光に照らされる彼女は、十二時を過ぎる前よりずっと輝かしいけれど、その表情は不安に包まれている。
彼女をそうさせたのは私だ。今すぐ彼女の不安を退けてあげたい。
「……もちろん。ちょっと戸惑いましたけど、また恋人に、なりましょう。」
「いいの? 私、王子様じゃないのよ?」
「関係ありませんよ。最初にあった時から、私の『憧れの王子様』ではなかったんですから。でも、あなたは憧れ以上だった。」
「そう……そうよね。あなたの中での兄上は、ちょっと美化されすぎだわ。」
そう言って彼女は笑う。私はそうだよね、と笑い返す。でも今この瞬間の方が、きっと遥かに美しい。
「ねえ、二人だけで踊り直しましょう? 今度は本物の私と。」
そう言って彼女は私を草の上に倒す。
「ええ。」
夜露に濡れる二人だけの舞台で、二人は朝まで踊り続けた。
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