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「今日はもう止めや」
ぽん、と頭の上に手を置くと、碧い瞳がぱっと開いた。
碧の中に赤いポニーテールが映って、だけどそれはたっぷりの涙によってゆらゆらと歪んだ。たちまち、ぼろっ、ぼろっと大粒の雫が頬を伝って。
「ご、ごめ、ごめんな、さいっ……」
木のテーブルに丸いシミをいくつもつくっていく。
肩を震わせながらぐずぐずと鼻を啜る一葉の、その頭を大きな手が少し荒めにヨシヨシと撫でまわす。
「謝らんでよかよ。まだ初日やけん、出来なくてよか」
「うぅぅ~。ごめんなさいぃぃ」
一葉の涙は止まらなくて、ぐすっ、ぐすっ、と肩を上下に揺らして大粒の雫を落としながら、ひたすらに謝り続けていた。
朝比は、そんな一葉に新しいバナナを剥いてあげた。一葉の目の前で真っ黒に変色したそれを下げて、黄色くて新鮮な香りのするそれを差し出すと、ボロボロの顔を上げてとても驚いた表情を見せる。
「初日、よぉ頑張ったっちゃね。今日の御褒美」
「…っひぐ…っひぐ……た、たべて、いいのっ……?」
「よかよ」
ふるふると震える一葉の手が、ゆっくりとバナナに伸びて。
朝比の方をチラっと確認しながら、小さな口が果実をひとくち頬張った。
一葉の口の中に入ったカケラは、本当に小さかったけれど…でも、そんな小さなバナナのかけらを一葉はゆっくりと咀嚼した。
たちまち、ボロボロだった一葉の表情が満面の笑みを浮かべだして。
ひとくと、ひとくち、ゆっくりと味わいながら……
バナナを半分だけ、食べることができたのだった。
「一葉」
そのあと、一葉の視線はジッと朝比を追っていた。名前を呼ばれてやっとその事に気づいたのか、慌てて視線をテーブルに移し「な、なに?」と答える。
「改めて。今日から3カ月間、お前ん調教師になった朝比美津也ったい。よろしゅう」
「……う、ん」
「お前ん目標は、とりあえずそのグレアばどうにかする事や」
碧い瞳から放たれるグレアは随分弱弱しく落ち着いた。
この調子ならば、きっと近いうちに一葉はコントロールを手にすることができるはずだ。
「明日から色々試すけ、オレについてきんしゃいね」
ぽん、と一葉の頭の上に手を乗せると、碧い瞳が赤を映して。人形のように綺麗な顔を不安げに曇らせながら、こくり、とひとつ頷いた。
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