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「元気やねぇ。まあ、別に、俺に従わなくてよか」
「意味わかんない。従わなくていいなら調教なんかいらないし!」
紫藤から聞いた話では、一葉はここにきてまだ数週間。ご飯もあまり食べず、水分はようやく摂取している状態なのだという。
「自分の主人以外に従う必要はなかってことばい。……お前の主人は紫藤さんやろ?」
「しらない。僕は売られただけで、あんな人知らない。御主人様でもなんでもない。言う事なんて聞くわけないじゃん」
……ふむ、なるほど。
一葉の話を聞いて、朝比はひとつ納得する。
(ま、なんてゆーか、ただの反抗期っちゃね)
家族に見捨てられ、見ず知らずの富豪に買われ……かと思えば、別に自分の生活が変わることもなく、今まで通りに暴力をふるわれる日々。
最も、紫藤のしている事はDomとSubのプレイなんかではなく、ただの虐待なのだが。
だとしても、一葉は自分がSubとして扱われている事を、まだ受け入れることができないのだ。
だから紫藤は、調教師を要求したのだろう。
このSwitchを、自分の玩具に仕立てるために。
「ま、そりゃそーやね。で、いつまでグレア放っとぉ?」
とりあえず、このグレアをそろそろ黙らせる必要がある。
一葉の放つグレアは、殺気がすさまじい。
喧嘩事にも慣れているとはいえ、あまり気持ちのいいものではない。こちらの神経を逆撫でされているだけなので、正直ただのストレスだ。
「……え、」
朝比にそう言われて、一葉はぽかん、と口を開けたまま固まった。まるで「なんのこと?」と言わんばかりの顔だった。
「グレアが納まらんと、お前の身体にも負担がかかるばい」
「わ、わかんないっ……勝手にでてくるんだもん、そんなこと言われても……」
困ったように眉を八の字に下げて、一葉はプイっと視線を反らした。
どうやら、このすさまじいグレアは無意識に放たれていたらしい。きっと、身の危険を感じた時、咄嗟に出てしまって……その緊張が解かれるタイミングがないままなのだ。
一葉がどれくらい出来るか、まだ分からないけれど……でも、朝比には自信があった。
「……まあ、ダイナミクスが覚醒したばかりのガキが簡単にグレアをコントロールできるわけなかばい」
一葉をSubにする自信、ではなく。
Switchとして両性をコントロールさせる、自信。
この子は、強いDomになれる。
だけど、賢いSubにもなれるだろう。
朝比は、一葉の顎をぐいっと掴んで、無理矢理こちらに顔を向けさせる。驚いた表情の一葉からは、再びグレアがどっと溢れていて。
「まずはグレアのコントロールから教えちゃろうか」
そんな碧い瞳を隠すように、朝比の指が瞼に触れた。
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