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「一葉。そのまま目ば瞑っとき」
「ちょっと、いきなり呼び捨てとか……!」
「Sh……言うこと聞けや。」
朝比がコマンドを発すると、一葉の表情が変わった。
ぐっと唇を噛み、朝比に言われた通りに目を伏せる。
「いいか、一葉。お前んグレアは緊張と警戒心の現れや」
伏せられた瞼を、朝比の人差し指が優しく撫でる。
「今はオレしか居らんけん、大丈夫。オレがお前を変えちゃるばい」
「…………う、ん、」
「そう、いい子や。深呼吸しんしゃい」
ゆっくりと、一葉の肩の力が抜けていくのが分かった。
完全に信頼されるには相当な時間を要するだろう。
「ゆっくり、吸って……吐いて……そしたら、オレん合図で目ば開け」
瞼を撫でる指を外して。
その指で小さな鼻をなぞり。
唇に、人差し指が触れた。
「…Look,一葉」
*
「まあ、そげん簡単にコントロールできんなら苦労しちょらんばい」
一葉と対面してから約1時間、目を閉じたり開いたりしてグレアのコントロールを教えていたが……そんなにすぐ成果は得られなかった。
まだ初日、まだ会ったばかりの怪しい調教師に心を開くなんて……ましてや、一葉は警戒心が人一倍強い。
こんな短時間では到底無理だと悟り、休憩時間を挟んだ。
そして朝比は一旦、紫藤の元へ報告に向かった。
「朝比くんは犬の調教にきたんだよね? なぜグレアを教える必要が?」
この小一時間の調教内容がグレアのコントロールだと聞き、紫藤は顔を顰める。紫藤の依頼は……大きくいってしまえば、一葉をSubとして扱えるようにしてほしい、という内容だった。
にも関わらず、グレアを教えるというのは、真逆のことをしているように思えて仕方ないのだろう。
「Dom性ば持ってる限り、グレアは消えん。なら、そのグレアばコントロールして抑えさせるしかなか」
Subに育てるために、Domをコントロールさせる。
一葉自身がDomを抑え、Sub性を前面に出すことができるようになれば、この調教は間違いなく成功する。
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