赤い長髪、薄茶色のキツネ目

1/3
637人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ

赤い長髪、薄茶色のキツネ目

「はー……でっかい屋敷やねぇ」  朝比(あさひ) 美津也(みつや)は、大きなスーツケースを引きながら、見たこともないような洋風の門を見上げて思わず呟いた。  空は雲一つなくからっと晴れており、時折、気持のよい風がさらりと吹き、ポニーテールで結われた赤い長髪がなびく。  齢は21、専門学校3年の朝比は、ある屋敷を訪れていた。『調教師(トレーナー)現場実習』の為である。  学校で指定された実習先が、この邸宅で。朝比は今日からココで3か月間、泊まり込みで実習を行うのだ。  この現場実習を乗り越え、残す試験をクリアすれば調教師の資格を得ることができる。この実習は資格取得のための必修科目だった。  朝比は、細いキツネ目をうっすらと開け、薄茶色の瞳を覗かせながら、門の真ん前に立ち止まる。  白い壁に囲われた敷地に、黒い鉄格子の門。  その門の向こうに見える、大きな庭と欧風の館は、まるで異世界のようで。一般人とはかけ離れた、優雅な暮らしを容易に想像できる豪邸である。  門の端についているインターホンを見つけ、それを押すと『ぴんぽーん』と軽快な音が鳴り、すぐに使用人らしき人物が対応してくれた。 「今日からお世話になります、実習生の朝比と申します」  慣れない敬語で答えると「少々お待ちくださいませ」と言い、通信が切れる。朝比はふう、と息を吐き、門を見上げた。  高さは3メートル弱くらいあるだろうか。まるで遊園地のアトラクションの入り口のようである。  そこについているカメラをみつけて、思わず「厳重やねぇ」と再び独り言を漏らしていた。  数秒後、門は大きな音を立てながら動き出した。  朝比を招き入れるように観音開きに開き、上部からスピーカー越しに音声が響きだす。 『お待ちしておりました、どうぞお進みください』  事前に連絡を入れておいたとは言え、こんな簡単に人を招き入れて良いのだろうか……。まあ、難しいことを考えるのは止そう。と思い、朝比は招かれるまま、門をくぐり『紫藤(しどう)邸』の敷地内に足を踏み入れた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!