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甘い命令、赤い言葉
朝比がこの屋敷にきてから2週間。
一葉は、普段からグレアを発さずに過ごす事ができるようになり、一葉の表情には自信が満ちていた。
正直、グレアを注がれるのは苦手だが、あれ以来粗相もせず紫藤のグレアを受け止める事ができるようになったのだ。
絶え間なく注がれるグレアを最後まで受け入れることが出来ると、また褒められる。怒られないし殴られない、それどころか、褒めてもらえるなんて、これまでの生活から考えたらありえない事だった。
そして、グレアを抑えることが出来るようになり、次に教えられたのはコマンドである。
数えたらキリがないくらい、たくさんの命令があるのだが、これに関して一葉は難なく覚えることが出来た。
「言葉の意味さえ覚えれば、コマンドば与えられた時に、勝手に身体が動くよぉになるばい」
朝比はそう言いながら、『このコマンドを与えられたら、こうする』という動作をひとつずつ丁寧に教えてくれる。
基本姿勢のKneel,Stay,そしてプレイにてよく使われる、Stripなども教え込まれていく。
「Presentとか絶対無理なんだけど。知らなきゃよかった」
「それは、お前ん本能がまだDom寄りやけん、Subん気持ちば知れれば、また変わるっちゃ」
「絶対無理」なんて悪態吐いていたが、実践の場になると朝比の言っていた意味がよく分かった。
「Come,」というコマンドに対し、テテテ…と小幅で駆け寄れば、紫藤はニコリと笑んで一葉の頭を撫でてくれる。
「Good Boy,一葉くん」
その言葉が、一葉の心をふわふわと浮かせた。
最初は、褒められることがただ嬉しくてコマンドに従っていたのだけれど。やがてそれは『Sub』としての喜びに少しずつ変化していたのだ。
「っ、あ……り、がとう、ございます……!」
「イイコだ。さあ、一葉くん。褒美のグレアだ、受け取りなさい」
灰色の瞳に一葉の碧を映し、それから、まるでタバコの煙のようなグレアがふわりと放たれて、一葉を包みこむ。
紫藤のグレアは心地よかった。
心が落ち着いて、なにも考えられなくなっていく。
時々、加減を間違えて強いグレアが放たれると気を失ってしまいそうになるが、それもまた、クセになってしまうのだ。
Subになんかならない、と思っていたけれど。
「ま、すたー、もっ、と、もっと、ください……」
紫藤にグレアを注がれると、なんだか意識も朦朧としてきて……『こんなに気持ちいいのなら、もうずっとこのままでもいいのかもしれない』と、そんなことを思ってしまうようになっていた。
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