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焦がれる想い、溶ける身体
「主人、早く来ないかな……」
一葉が呟くようにそう言ったのを、朝比は聞き逃さなかった。
実習日誌となるノートをまとめながら、朝比は一葉の方を見る。一葉は、朝比の座る椅子の足元でペタンと座っていた。今はKneelの訓練中である。
はちみつのような金色の前髪の下で、透き通った碧い瞳が床を伏目がちに見つめていた。
朝比が屋敷に来て1か月。
一葉は見違えるほど成長していた。
まず、グレアが完全に抑えられるようになった。
あんなにダダ漏れだったグレアが、一見では分からないくらい抑えることが出来るようになったのである。
そして、紫藤のグレアを一葉に毎日注ぐによって、『紫藤が一葉の主人だと覚えさせる事』と『一葉がSubとしてグレアを受け入れる訓練』が同時に達成できた。
この調教方法は、一葉に合っていたと考えられる。
そして、次の調教で問題となったのは、信頼関係だ。
『Subとして扱う』ならば、そこに信頼関係がなくては一葉は紫藤に付いて行けない。
一葉の信頼を得るために必要なもの。
それが【アフターケア】であると早期に気づいた朝比は、紫藤にそれを促した。
「お仕置きの後のアフターケアば忘れんでほしかばい」
なぜ、そんなものが必要なんだ。と言った紫藤に、朝比はニコッと笑顔を作って答える。
「家族に売られた一葉は、傷ついとぉやろ? 傷ついたところば優しくされれば、子供はすぐ懐くけ、今は飴7割、鞭3割くらいが丁度よかよ」
Domにアフターケアを必ず行うよう指導を促すのも、調教師の役目だ。
それから、紫藤は仕置き後やグレアを注いだ後に、一葉を抱きしめるなどしてアフターケアを行い、少しづつ一葉の心を開いていくことに成功した。
何度かバッドトリップを繰り返しながらも、確実に、紫藤に惹かれていく。
わずか1か月で、一葉は『主人のSubになりたい』と思えるようになっていた。
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