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地面が近づくにつれ現実に引き戻されていく感じがする。
もしかして頂上での出来事は夢だったんじゃないかなんて…
…いや、現実逃避すぎる。
観覧車の前にはそこそこの行列、こぞって告白するんだろうか。
…今や理解できないだとかなんだとか言う権利はない気がする。
だって俺は恭弥に、それをされてしまって、その上どうしようもないほどぐらついてしまったんだから。
「……ぁ、」
もしかして、観覧車に乗るのは告白する生徒がほとんどで、俺達のことも必然的にそういう目で見られてしまうのでは…いや、間違ってはいない。正しくそれをしてしまったわけだから。
でも、
バレたくないなんて思ってしまった。
俺は風紀委員長で、恭弥は生徒会長なんだから…
「慧斗。適当に話合わせて、」
……え?
ゴンドラの扉が開かれて外に出ると突き刺さる視線。
思った通りだ。
「いや、でも…慧斗が観覧車乗ったことないなんてなぁ、さすが、箱入り息子は違うな」
なるほど。そういうことか。
「…うるさい、あまりこういうところには来ないと言っただろう。」
「…で?乗せてやったけど感想は?」
「…普通。感想を言うならまぁ、高いなぐらいだ。」
「…えぇ、薄すぎだろ感想…告白人気スポットを普通扱いするのか慧斗は」
「人気なのか?」
「もちろん。ド定番だしな。」
「慧斗も俺に告白しちゃえば良かったのに。」
笑いながら言われるが恭弥…
お前それ…スレスレだろう。
「…馬鹿言え。有り得ない。」
「つれないな、全く…さて、帰るか?」
「…あぁ、」
適当に『友人と2人で観覧車に乗った』会話をして歩けば、探るような視線は無くなる。
視線を浴びていることには変わりはないが。
流れで告白スポットをバカにしてしまった感はあるがどうせ告白する奴らばかりだろう…まぁそんな些細なことは気にしないでおく。
たわいもない会話をしながらバスに向かう。集合時間より少し早くてもまぁいいだろう。
「……そういえば、あの店で何買ったんだ?」
少し気になったので聞いてみる。
「ん?あぁ…贈り物をちょっとな、」
贈り物。
誰への?
「へぇ、彼女か?」
「妬いてんの?…つか、他に好きな奴いたら告白してねぇよ。」
しまった、墓穴を…
「妬いてない。馬鹿か。」
「俺は妬いてくれるのすげぇ嬉しいけどな?」
優しい目つきで笑う。
甘くて溶けそうな視線から目を逸らして歩く。
「…思い上がるなよ…」
「思い上がってねぇよ。…口説いてんの。」
口説く?どうしてだ?
あとは返事を待つだけなんじゃないのか?
「…、…なんでそんな、もういいだろう…」
「俺は絶対慧斗をオトすから。欲しいモノを手に入れる為に努力は惜しまない。」
な、なんだ…?
もしかして返事を貰うまでこういうことを続けるつもりなのか…?
「努力なんてしなくていい…」
「駄目。慧斗は鈍いから何度も伝えないとわかんねぇだろ?」
そんなことは…ない、はず。
充分…たぶん、恭弥の気持ちは…伝わっている…と思う。
「もう充分…」
「まだ伝えたりない。本当はもっと甘やかして好きだって伝えたい。」
な、なにを恥ずかしげもなく言っているんだこいつは。馬鹿なのか?
「…もういい、黙って歩け。」
「素直じゃないな…恥ずかしいんだ?」
恥ずかしいのはお前の方だろう…
好きだなんて…そんなに言わないで欲しい、その度に俺の心臓は意に反して飛び跳ねてしまうのに。それをわかっているんだろうか。
甘く囁かれてしまえばすぐに呑まれてしまうのを知っていてそれでもするというのか?
俺も大概だが、
恭弥も狡い…な。
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