遊園地

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「ここでも一番乗りか。」 「…今頃観覧車は大変だろうな。」 今日を境にどれだけの人数が恋人になるんだろうか。 毎年のことだが新入生歓迎会の後はもう目も当てられないほどの浮ついた雰囲気が校内全体を包み込む。 本当に何処も彼処も甘い空気が漂い、風紀は乱れに乱れる。 寧ろ健全な学校生活とはなんだ?と問いたくなるくらい酷い有様だ。 「告白祭りみたいなもんだよな。風紀も大変だろ。」 「あぁ…本当に気が滅入る…」 俺が座ると恭弥は…ごく自然に、横に座る。 まるで自分の席だという風に。 まぁ行きがそうだったんだから、ここが恭弥の席になるのか…? 「…慧斗もあの空気に当てられて俺に甘えればいいのに。」 「…馬鹿か。いいか、返事はしていないんだから馬鹿みたいにべたべたしたら許さないからな。」 そう言うと風紀委員長はお堅いなーなんて言って肩をすくめる。 お堅くて悪かったな。 「とにかくしばらくは忙しいな…ただでさえアレが欠けて大変だというのに…」 「あー…人員増やすか…?慧斗がその気ならスカウトの許可やるけど。」 スカウト。 それは生徒会から許可が出た際に風紀の人員をスカウトして増やすことが出来る制度。 アレはああ見えて仕事は出来る方なので困っていたし数で補填してもいいが、風紀の場合生徒自身が様々な権限を与えられるので悪用しないような生徒を慎重に…それはもう慎重に選ばなくてはならない。 「定期テストまでにあの浮ついた雰囲気をどうにかしないといけないからな…仕事のできる奴でないと…」 「引き継ぎもあるし他学年だろ?委員に候補挙げてもらえば?」 なるほど… 「…あぁ、そうだな。」 「スカウトの許可はいつでも出すから。」 「助かる。」 「…あとさ、全く関係ないんだけどキスしていいか?」 は? なんで 「…却下だ。」 「なんで?」 なんでってそれはこっちが聞きたいくらいだ。何の理由でキスなんて… 「キスする理由がないだろう。」 「理由が無かったらキスしちゃ駄目なのか?」 …そんなもんなんだろうか。 理由なく行動するなんて馬鹿だろう。 「駄目だ。理由が無いなら尚更。」 「理由があればいいのか?俺が今キスしたいからする。いいな?」 「いや、待て意味が…っん!」 俺の言葉は恭弥の唇に塞がれた。 熱い舌が口を割って入ってくる。 ぬるりとしたそれはいとも容易く俺の熱を上げて口内を蹂躙する。 熱くて気持ちいい…ずっと溶けて混ざっていたいと思った。 「…ん、ぅ…、ふ…ぁ…」 大きな手で優しく頭を撫でられる。 口の中を好き勝手犯す舌とは裏腹なそれに身体の芯が溶けきってしまいそうだ。 気持ちいい、どうしよう、でも、止めなくては… 集合時間より少し早いからと言って他の生徒が戻ってこないなんて確証はない。 「…ん、ぅ……っは……馬鹿…、お前ふざけ、」 恭弥を引き剥がすと、 欲情が映った朱い瞳に見つめられる。 「ふざけてない。」 「…っ、誰が来るかわからないだろう…?!」 焦って告げると少し考える仕草。 「じゃあ夜。お前の部屋行くから。」 ……え、 「いっちばーーーんっじゃなかったーー!!!」 バス内に響く声。有栖川だ。 止めるのがもう少し遅かったらと思うとゾッとする。 「…有栖川か。」 「…今言ったこと忘れんなよ。 …有栖川、楽しかったか?」 くそ、なんで一方的に約束を取り付けるんだ。身勝手すぎるだろう… 「うん!!!!恭弥と別れた後もいっぱいアトラクション乗ったんだ!!!」 「へぇ、それは楽しかっただろうな。あの2人は別のバスか?」 「ん?なんかね!観覧車乗るっぽい!すげー並んでたよ!!」 なんか蚊帳の外なんだが。 いや、まぁ俺には関係ないんだが…今の今まで俺のことを好き勝手触っていたのにこうも手のひらを返されると… 「…疲れたし寝るから着いたら起こしてくれ。」 「あぁ、分かった。」 「慧斗寝るの?おやすみ!!」 「…おやすみ。」 すっきりしない心を誤魔化すようにして、目を閉じた。
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