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二人の兄弟
明日、15時を迎える頃。
俺の弟が国王となる。
*
冷たい石に覆われた牢獄の中、手錠と首枷をかけられた1人の青年はその口に笑みを浮かべた。
彼は盗賊として捕らえられた。
実際物を奪ったり、人を殺したりもした。このまま処刑され、地獄に落とされたとしても文句は言えないだろう。
しかし、彼はただの盗賊ではなかった。
この男の体には王族の血が流れていたのだ。
そう、忌々しく汚れた高貴な血が。
この国は変わっている。
罪人の処刑は国王自らが手を掛けるのが決まりだった。
明日の15時、俺の弟が二十歳を迎えこの国の新たな王となる。
そして、その日に俺は弟に首を跳ねられ殺されるのだ。
まぁ、血の繋がりは無いのだが。
(いったい何年ぶりの再会だ?確かこの城を逃げ出したのが13才の頃だ。あいつは8…いや、7才だったか…もう13年か。)
怖がりで、夜中1人でトイレに行けずによく起こされたものだった。
城の見取図が覚えられなくて、しょっちゅう迷子になってはいなくなるものだから、その度に俺が城の中を探し回った。
見つけると、あいつはいつも泣いていた。俺に気づくと更に泣いては『来るのが遅い!』と言って怒ってくるのだ。
そして俺の服にしがみついては、ピッタリと後ろに付いて歩くのだった。
ククッと思わず笑い声が漏れた。
あぁ、らしくない。思い出に浸るなんて。
しかしそんな出来の悪い弟も、明日で二十歳だ。この国の、王になる。
あいつはちびの癖に指が長くて手が大きかった。きっと背もでかくなってるだろう。
あの柔らかくて癖っ毛だった金髪は今も同じだろうか、あいつの髪は撫で心地が良かった…。
冷たい石の壁に背を預けたまま、ゆっくりと両目を閉じた。
国王には処刑される者の罪状は伝えられるが、罪人の素性は明かされない。
罪人は国王に話しかけないよう、処刑の際に猿ぐつわを噛まされる。
きっとあいつは、俺に気が付かない。
それで良い、その方が良い。
それであいつが国王になれるのなら。
最後の最後に、命を懸けて守り抜けた奴の顔を間近で見て死ねるのだ。
「俺には…勿体ない、死だ。」
明日が来るのが、楽しみだ。
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