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『ごめんな、リジュ。今の俺じゃお前を連れて逃げ出すことができないと思うから、置いていくけど…そしたらお前は国王になれるから、な。きっと、お前に会うことはもうできないけど、俺は…お前が生きているなら、それでいいかなぁ…。』
*
血のつながらないたった一人の弟は、俺のベットの中で丸くなってスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てていた。
夜中トイレに行きたいと起こされたのだが、帰りそのまま俺のベットに入り込んできたらしい。
そっと綺麗な金髪に指を通した。柔らかなその髪は母上に似ているが、所々ウェーブした髪質は父にも母にもないリジュ自身のものだった。
リジュはもうすぐ、8才になる。
子供の選別が行われるのは下の弟が9才か10才に成るまでに行われるらしいが、血の繋がりがないリジュは国王の様子を見る限り、すでに選ばれていないことがありありと感じ取れた。
いつ事故にあっても、毒を盛られてもおかしくない。
白い頬を指でなぞると、くすぐったそうに首をすくめてふわっと笑った。
愛らしいその笑顔に、リゼもつられて笑みが漏れる。
「お前、俺がいなくなったら泣くんだろうな…。もう、迷っても探してやれないもんなぁ。」
「でも、俺がいたら
お前殺されちまうから…」
ごめんな リジュ
*
その日の夜、リゼは見張りに付く兵士たちの目を欺いて城から抜け出した。
城の馬を一匹連れだし、黒い布を掛けて走らせた。
兵士たちがその馬を必死になって追いかけている間に、人目のつかない森の中へと逃げ込み城下の町へと姿を眩ました。
国王は血眼になり、兵士たちにリゼを探させるよう命じた。
リゼがいなければ、次の王はリジュが継ぐことになってしまう。王族の血を引いていない者を国王にするなどあってはならないことだった。
国王は悲しみ、そして怒った。
リゼには知識を与え、剣を教え、馬も与えた。リジュには最低限の学しか与えていなかったが、選ばれるべき息子には王として必要な知識を惜しみなく授けたのだ。
「なぜだ、リゼ…。なぜ私を裏切ったぁ!!」
苛立ちのままに叫び、家紋が刻まれた自身の短剣を自室の机に突き刺した。
*
長かった夜が明け、リジュは騒がしく走り回る兵士たちの足音に目を覚ました。
窓の外からも大勢の話し声や馬の足音が聞こえる、何かあったのだろうか?
ベットから身を起こすと、兄の部屋に行こうと思った。リゼなら何か知っているかもしれない。
床に足をつけたとき、自分が手に何か握っていることに気が付いた。
いや、握っていると思ったそれは一部で、本体はリジュの人差し指にブカついた状態ではまっていた。
一目見てすぐに気付いた。それはリゼがいつも同じ指にはめていた指輪だった。
「……リゼ?」
裸足の状態で部屋を出ると、走ってリゼの部屋に向かった。
嫌な胸騒ぎが止まらない。驚いた兵士たちを押し退けて、息を切らしながらリゼの部屋のドアに手をかけた。
ドアに鍵は掛かっておらず、勢いのままに扉が開いた。
部屋の中にリゼの姿はなかった。
だが、部屋の中に変わった様子もない。いつもと同じだ、リゼはどこかにいってるんだ。朝から剣の鍛練をしに行っているのかもしれない、きっとそうだ、中庭にならいるはず…
リジュはドアを閉めることも忘れてそのまま部屋を飛び出した。
机の上に飾られた、サネカズラの花びらにも気付かないまま。
*
『サネカズラ』
花言葉
"再会を願って"
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