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壊れた傘は歌わない
早朝のウィーン市立公園で若い女性の遺体が見つかった。ただの女性の遺体ではない。富裕層に属していると一目で分かる、若い令嬢だった。
彼女は花壇の陰に隠されるように倒れていた。見つけたのは公園の掃除夫で、前日まで降った雨で服がかなり汚れていたので最初は娼婦の死体だと思ったそうだ。そうでないと分かったのは着ているドレスから彼女が持っていたバッグから何までオーダーメイドだったからだ。彼女は鋭利な刃物のような武器で心臓を刺され、彼女の美貌は恐怖に歪んだ顔で持って今世を記憶することになってしまった。
遺体の女はマリア・ヴェッツェンベルクという18歳の娘で、昨年の秋に新聞社社主、レオポルト・ヴェッツェンベルクの娘として社交界デビューしたばかりだった。美しく社交的で知的な話題を提供した彼女を社交界と富裕階級層は覚えており、この恐ろしい事件に一同は震え上がった。皇帝フランツ・ヨーゼフはこの令嬢の痛ましい死に深い哀悼の意を示し、ウィーン警察に一刻も早い事件の解決を要請した。
ウィーン警察の警視総監はこの事件の捜査をアルバン・ヘルツ警部に委任した。アルバン・ヘルツ警部は46歳、岩のような大柄で屈強な男だが性格はいたって真面目で温厚での、人付き合いの長ける男である。彼は超人的な推理力は無いが、彼になら話しても大丈夫かもしれないという安心感と、どんなに手がかりが少なくても絶対に諦めない頑固さがある。今回の事件は上から下まであらゆる階級を行き来するかもしれないと直感した警視総監はヘルツ警部を呼んだ。ヘルツ警部は最上の敬礼で以ってこの命令を承諾した。
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