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アリスはシャーロットが早々にダウンしたことに気付いていた。
本音を言えば、足を止めて彼女の様子を伺いに行きたかった。
そうすれば、あの指輪をもっと間近で見る事が出来るのに。走りながらちらちらとみていると、アーロンも指輪を気にしているようだった。
やはりあの指輪には何かある。
隣の席になったのは偶然だ。
だけど、彼女を一目見た瞬間から、指輪が気になっていた。
でも、いきなり指輪を見せてくれ、では警戒されるに違いない。まず、友達になる事が指輪を見せて貰う一番の早道だと判断した。
喋ってみて、いい子だなと思ったのは嘘ではない。
だからこそ余計に、指輪について切り出しにくくなったのは失敗だったかも、と少し思ってはいる。
「ペースが落ちてるぜ」
赤銅色の青年チャドが、いつの間にか横に並んで走っていた。
勝負の真っ最中に余裕を見せつけてくる相手をアリスは好くタイプでは無かった。
「うるさいわね」
「あの子が気になる?」
「あの子?」
「あのギブアップした子さ。どういう理由かは知らないが、入学早々随分と仲のいい相手が出来た見たいじゃないか」
「シャーロットの事かしら。席が隣で、話しかけてみたら良い子だったのよ」
「それだけ?」
「ええ、そうよ」
アリスはそう言ってペースを少し上げた。
あまりこの事を彼と喋りたいとは思わなかったからだ。
だが、チャドは平然とそれに合わせてくる。
「まあ、普通の女の子同士ならそうかもなって思うさ」
「私だって見ての通り年頃の女の子よ」
「けど、ガーネット商会の娘だ。しかも、それをプライドの拠り所にしていると来てる」
「いけないかしら」
「いや。悪くはないさ。何でも反骨精神を支えてくれるものは大事だからな。ちなみに俺の場合はこの鍛え抜かれた肉体がその一つだな」
聞いてない。
アリスはそう思ったが、口には出さなかった。
呆れていたからだ。
「ともかく、だ」
チャドはその呆れた空気を感じて話題を切り替えた。
「何かしらの打算があるんじゃないかって思っちゃうぜ」
「……それが何だと言うの?」
「は?」
「あったとして、それがなんだと言うの」
「何でもないさ。さすがは大商人様の娘ってところかな」
「その言い方は止めて。不愉快だわ」
人の心に土足で踏み入ってこようとするこの青年は、アリスを酷く苛立たせた。
「やっぱり、何かしら企みがあるみたいだな」
そう言って、チャドはペースを上げた。
それはまるで、躾のなっていない犬に後ろ足で砂をかけられたような気分だった。
「くっ」
負けじとアリスもペースを上げる。
彼を力でねじ伏せねば気が済まなかった。
こういうタイプは、正面からねじ伏せれば黙ると言う事を、アリスは知っていた。
二人のデッドヒートがはじまり、アリスはシャーロットの方を気にかけている余裕もなくなった。
だから、いつの間にかシャーロットが保健室に搬送されたことも気付いていなかった。
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