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真っ黒のセダンの中
後部座席のヘッドレストの奥
リアガラスを塞がない程度にモノが置かれている
古い雑誌、読まなくなった本、壊れたキーホルダー
下ろすのも面倒で投げ込まれたいくつかのモノ
ーせっかくだから、お揃いのものを買おうよ。今日の記念にー
ーいやだよ。恥ずかしいー
彼はむすっとして私を見る
何度目かの旅行。就職してなかなか遠出することができなくなって久しぶりの旅行。テンションが上がってそんなことを言いだすけど、あとで見て恥ずかしくなるのはいつも君なのに。
古い街並みが好きな私と新しいものが好きな彼
いつまでもガラケーのままの私と最新のスマホを難なく使いこなす彼
いちいち店の前で止まる私とどんどん先に進んでいく彼
すぐに注文を決めて店員さんを呼ぶ彼といつまでも何も決まらない私
歩く速度も、考える速度も、時間の流れそのものが違ってしまっているんじゃないかと思うくらい離れている2人
突然降り出した雨に結局お揃いで買った傘 彼が青で私はピンクで
お揃いで買ったのに差している傘は1本で、この時だけは歩く速度も考える速度も私に合わせてくれて
真っ黒のセダンの中
後部座席のヘッドレストの奥
リアガラスを塞がない程度にモノが置かれている
古い雑誌、読まなくなった本、壊れたキーホルダー
下ろすのも面倒で投げ込まれたいくつかのモノ
その一番上にあの時の傘がのっている
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