傘を一本

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傘を一本

 「この傘あげるわ。」 父から1本の折り畳みの傘をもらった。 オレンジ色で可愛い。なんだか嬉しかった。 今まで傘と言えば、黄色の学童用の傘か少女漫画のついたピンク色の折り畳めない傘だった。 中学生になりそのオレンジ色の傘を鞄の中に入れて登校した。 いつ雨が降ってもすぐに鞄から傘を出してさせる。 安心感と共に可愛らしい色の傘をさせることが嬉しかった。 その傘は私が高校を卒業するまで私と共に通学した。 それほどその傘は私のお気に入りだった。 ボキッ…。 ある日、私のお気に入りの傘はとうとう修復不可能になってしまった。  いつもの傘がなくなり、私は携帯する傘を買うことはなかった。そのかわりに、急に雨が降るとコンビニで傘を買うようになり自宅にはいつも数本のビニール傘が並んでいた。 便利なもので、その傘は雨の降りそうな日に家族に重宝された。  そのうちオシャレに興味を持って、傘もちょっと良いものを買いたくなった。 傘屋さんに行ってみると色とりどりのジャンプ傘がずらっと並んでいた。1000円均一のものもある。 どこにでも気にせずにさしていける傘がほしかったので、店員さんに相談。 「そうですね、紺か黒ならどんなときでも大丈夫ですよ。これなんかシワ加工がしてあるから布がおれてもカタがつかないからいいですよー。」 と勧められ、2900円のちょっと傘にしては良い方のを購入した。 雨が降ってその傘を使うのが楽しみで3回ほど使った頃、 「姉ちゃん。この傘貸して。会社の葬式にさして行く傘がないんだ。」 と弟が言います。 「それわざわざ買った高い傘だから、絶対なくしたらダメよ。」 と注意して貸しました。 そのまま貸したことを忘れていた傘でしたが、ある日雨が降りそうなので傘を探していたらありません。 弟が葬式にさして行った傘を、誰かが帰りに間違えて持って帰り自分の傘がなくなっていたと言います。  私の大好きな傘。わざわざ傘屋さんで相談までして手に入れた傘なのに…。 その後私は良い傘を買うことはやめ、100円ショップで購入したビニール傘を大事に大事に使っています。 あの私の傘は、今どこへ…?
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