傘侍

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傘侍

 むせ返るような湿気と服の中に籠もる熱気。今年もまたこの季節がやってきた。  ーー梅雨(つゆ)。  ゆううつなつゆ。  回分にしたいがどうもならない程に湿気が鬱陶しい。しかしそれは梅雨が持つ本当の不幸ではない。その訪れと同時に現れる厄介な刺客。傘辻斬りこそが諸悪の根源だ。  傘辻斬りは主に駅の上り階段に現れ、奴らには様々な流派が存在すると聞く。 柄を持ち大きく得物を降る振子流(ふりこりゅう)。 同じく柄を持ちながらも、大きな突きを繰り出す洋剣流(ようけんりゅう)。 畳んだ胴を持ち小刻みに切りつけてくる小太刀流(こだちりゅう)。 階段以外には得物を反対に持って振る孔球流(ごるふりゅう)も存在する。 俺が知るだけでもこれだけあるというのに、ネット上にはさらなる流派の目撃情報が流されている。 それほどに傘辻斬りの凶行が梅雨時には蔓延するのだ。
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