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幾日かの晴れ。大学生である透はのんびりと古アパートへと向かっていた。
将来なりたいものは未だに見つからない。何をするべきか。悶々としながらも夏の扉はゆっくりと開かれていく。
つい項垂れてしまうが、時は進むのだ。
梅雨の時季もあって手には傘。どうやら今日も出番はなさそうだ。
公園の横を歩く。ここからも子供たちの喧騒。平和の証。
そっと公園に目をやる。
走り回る子供たち。のんびりと散歩をする老人。日傘を差して子供たちを見守る母親。
その奥に透は見つけてしまった。
踞る少女を。
先日の少女とは違う少女。
少女の先には小さな生き物。
生き物であったもの。
少女は懸命に手で土を掘っている。
その少女の後ろを通る男の子が叫ぶ。
「うわ!気持ち悪い」
透は真っ直ぐに少女の背に向かって歩く。
「気持ち悪くなんかないもん!」
強気だが涙混じりの少女の声。
少女の背まで辿り着いた透は傘を開いて少女の肩にかけた。
「大丈夫だよ。見せないようにやろう」
ポロポロと透を見上げる少女の目から涙が溢れていた。
透も一緒に手で土を掘り返す。
「あのね。死んじゃってたの。誰も構わなかったの。可哀想だよ」
懸命に土を掘る少女の声。
「ちゃんとお墓作ろうね」
透と少女と亡骸となった猫は傘に隠れている。
わざわざ覗きに来る者はいない。
穴を掘り、猫の亡骸を置いて今度は土をかける。
すっかり亡骸が埋まってから透は手を合わせた。
「天国に行けるかな?」
少女の質問に透は手を合わせたまま答える。
「多分ね。君に出会えたから」
少女は、ぐしと瞼を腕で拭う。
「お兄さん、ありがとう。名前、なんて言うの」
「透。覚えなくていいけどね」
透は立ち上がり、傘を畳んで少女を離れる。
少女はじっと透の背を見ながら呟いた。
「透さん、か……」
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