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透はとぼとぼと古アパートに向かう。大学からはそれほどに離れている場所ではないが、それでも十五分はかかり、辿り着くまでにコンビニにスーパーにコインランドリーがある。
おかげで不便を感じることは少ないが面白味には少々欠ける。
コンビニの前を通ろうとした時、子供の声が響いた。
「やめてよ!」
透はその声の方を向くと男の子が女の子の髪を引っ張っていた。
「お前、生意気なんだよ!いつも口煩くて!」
透は真っ直ぐに男の子に向かって駆けた。
その場まで行くと男の子の肩に手を置いた。
「女の子をいじめちゃダメだろう?」
男の子が透の顔を仰ぎ見ると髪を掴んでいた手を離した。
睨み付ける透に男の子は項垂れる。
肩に置かれた透の手はずしりと重い。
恐怖に駈られたのだろう。男の子は小さな声を絞る。
「ごめんなさい……」
「女の子には優しくな」
「ごめんなさい……」
「謝るのは僕にじゃないよな?」
男の子は女の子に力強く頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「いいよ」
女の子がそう告げた後に男の子は走り去っていった。
「お兄さん、ありがとう」
そう言う女の子の頬は心なしか赤い。
「いいよ」
そう言って透は立ち去っていった。
少女は透の背を見送る。
その光景を透を追いかけていた二人の少女も見ていた。
二人の少女は、髪を掴まれた少女に声をかける。
「あのお兄さん、カッコいいよね」
「うん……」
「お礼しに行こう」
そうして三人の少女は透の住みかへと一緒に向かって行った。
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