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透が古アパートの近くまで来るとそこには早織が待ち構えていた。
「今日も部屋借りていい?まだ親とぎくしゃくしててさ」
済まなそうに早織は透に手を合わせてみるが、透の背の奥に少女三人の姿を見つけた。
「……透、また?」
呆れたように早織は告げるが透は首を傾げる。
「何のこと?」
早織は透の背後へと指を指す。透はその指の先に視線を向ける。
そこには三人の少女。
「君たち、どうしたの?」
そう声をかけられた三人の少女は、それぞれに頬を朱に染める。
「あの……」
鍵を失くした少女が小さく声をあげる。
梅雨の時季だというのに、涼しげな風が吹く。
透は何も言わない。
ただ首を傾げているだけ。
その中、早織の声が割って入る。
「お姉さんと少し話そうか」
三人の少女の厳しい視線が早織にぶつかる。
「彼女さんですか?」
公園の少女が語気を強めた。
「違うよ」
「じゃあ、何なんですか?」
髪を引かれた少女も負けない。
透は、ぼうっと空を眺めていた。
我関せず。如何にもそう告げるように。
空に雲が立ち込める。一雨来るかも知れないと。
その中、早織の指が今度は透をぴしりと指した。
「この男はね、女の子には誰にでも優しいの。困ってる子は誰でも助けちゃう。自分にできることなら何でもしてあげるの。でもね、本当に誰でも優しいくせして、その先を一切考えない駄目男なの。女の子に優しくして、惚れさせて、それに気付かない超鈍感男なのよ!」
つい透が眉をひそめる。
「それは酷くないか?」
「黙ってて!幼い女の子を惚れさせて、それに気付かず普通に接してしまう、女の子の初恋を次々に奪う初恋モンスターは黙ってて!」
ぽかんと口を開ける三人の少女。
「この男のせいでどれだけ初恋を潰された女の子がいることか!」
ぽつり。早織の顔に雨粒があたる。
透は宙に手のひらを差し出す。
ぽつり。雨がぽつぽつと落ちてくる。
「仕方ないな。続きは中でやって」
透は自室の鍵を開けて四人の女の子を部屋に入れた。
早織は勝手を知っているが三人の少女は違う。
おずおずと透の部屋に入って三人が三人とも同じものに視線が止まる。
本棚となっているカラーボックス。その上の写真立て。その写真。
それには幼い金髪で青い目の少女が映っていた。
「透、お茶!」
早織の声に透は分かっているよと手を上げて、台所のガスにやかんをかける。
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