初恋モンスター

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初恋モンスター

くるり。立ち去る少女は傘を回して見せた。 それを見守る少年の目には溢れる涙が止まらない。 「好きだから!一生会えなくて好きだから!!」 持っていた傘を下げて少年は叫んだ。 それは雨の日。遠い日。初恋が叶って初恋が消えた日。 「また、物思い?」 今年二十歳になる(とおる)の住みかである築五十年のアパートの一室に断りもノックもなく、近所に住む女子高生の早織(さおり)が上がり込んできた。 「別に物思いくらいいいだろう。で、今日は?」 「ここで宿題させて欲しいの。親と喧嘩しちゃってさ、家に居づらいんだよね。夕飯作ったげるからさ」 両手を合わせて頼み込む早織。 「構わないよ。それと夕飯はいらない。カップラーメンなのは分かりきってるからね」 「やった!」 透と早織は決して恋人ではない。腐れ縁と言えばそうだが、違うと言えばそれもまた正解だ。 早織は勝手にテーブルを片付けて教科書とノートを開く。 透は何事もなかったかのように再び窓の外を眺める。 雨。ぼんやりと涼しさを感じる町の景色。古アパートの敷地には我が物顔で色を帯びる紫陽花。 その横を小学生たちが傘をくるくると回しながら駆けていく。 下校する子供たちの喧騒は嫌いではない。同じような毎日の中、それは確かに平和である証なのだから。
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