4人が本棚に入れています
本棚に追加
初恋モンスター
くるり。立ち去る少女は傘を回して見せた。
それを見守る少年の目には溢れる涙が止まらない。
「好きだから!一生会えなくて好きだから!!」
持っていた傘を下げて少年は叫んだ。
それは雨の日。遠い日。初恋が叶って初恋が消えた日。
「また、物思い?」
今年二十歳になる透の住みかである築五十年のアパートの一室に断りもノックもなく、近所に住む女子高生の早織が上がり込んできた。
「別に物思いくらいいいだろう。で、今日は?」
「ここで宿題させて欲しいの。親と喧嘩しちゃってさ、家に居づらいんだよね。夕飯作ったげるからさ」
両手を合わせて頼み込む早織。
「構わないよ。それと夕飯はいらない。カップラーメンなのは分かりきってるからね」
「やった!」
透と早織は決して恋人ではない。腐れ縁と言えばそうだが、違うと言えばそれもまた正解だ。
早織は勝手にテーブルを片付けて教科書とノートを開く。
透は何事もなかったかのように再び窓の外を眺める。
雨。ぼんやりと涼しさを感じる町の景色。古アパートの敷地には我が物顔で色を帯びる紫陽花。
その横を小学生たちが傘をくるくると回しながら駆けていく。
下校する子供たちの喧騒は嫌いではない。同じような毎日の中、それは確かに平和である証なのだから。
最初のコメントを投稿しよう!