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 男の様子をしばらく見ていた店員が、ゆっくりとやってきた。 「抱っこしてみますか?」  店員は知っていた、最初に抱っこした犬を、ほとんどの客が買うことを。だから、大切な仔犬を誰にでも抱っこさせることはなかった。慎重に仔犬の様子を見て、客の様子を見て、お互いに幸せになれる組み合わせなのかを見極めるまで、安易に声をかけることはなかった。男は合格したのだ。  入念に手を洗い、さらにアルコール消毒して、手袋をした店員から仔犬を手渡された。仔犬はとても軽く、暖かく、柔らかで、いい香りがした。大きな瞳、吸い込まれるようなまん丸の瞳孔が、とび色の虹彩に囲まれている。可愛いまつ毛が並び、クレオパトラ風のアイラインがあった。目のまわりから耳はタンと呼ばれる赤茶色、耳の先は三角に折れている。真っ白な尻尾は、すごい速さで振られている。 「あ~やっぱり!この子はお客様を大好きなんですね!」 「そ、そうですか?」 (遊ぼう!遊ぼう!遊ぼう!) 顔を近づけるとペロペロ舐める。離さなければいつまでも舐め続ける。 「うひゃひゃ、くすぐったいよ、クロエ!」 (わたし?クロエって名前なの?) 「そうだよ、お前はクロエだよ」 (今会ったばっかりなのに?) 「お前はクロエだよ。ここはクロエと最初にあったお店・・・」 (そんなこと気にしないで!遊ぼう!遊ぼう!) 「あれ?もう名前があるなんて、おかしくない?」 (気にしちゃダメ!考えちゃダメ!遊ぼう!遊ぼう!) 「あ・・・」 (気づいちゃダメだよ!もっと遊びたいよ・・・)
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