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 いったんクロエの”ベロ”はこれくらいにしておいて、男は一番薄い灰色の鉛筆を手に取った。そして、クロエの毛の一本一本を描き始めた。首輪の上に毛がピンピンと跳ねている。ふわふわに見えて意外にツンツン硬いのだ。 (もうそろそろ、冬毛も抜けて換毛期だな)  絵は少しずつ仕上がっていく。赤い首輪、銀色の金具を描き終えて、あとはひたすら毛を描き続けた。 (白バックに白い犬を描くのは無謀だったか・・・)  明らかに無謀である。でも、男は描きたいから描くのだ。上手く描けなくてもいい、そう思っていた。誰かに見せるつもりなどなかった。描きながらクロエのふわふわだがちょっと硬い毛、抱きかかえるときの柔らかな感触、暖かさ、ピンと伸びた前足、もがく後ろ足、引っ掻かれると結構痛い爪・・・少しずつ思い出すのだった。
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