青いベンチ

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 長い夜が淡々と過ぎ、辺りが白々とする頃、1人の老婆が杖をつきながら歩いて来て、そのベンチに腰かけた。  昨日もやって来たおばあさん。  毎朝の散歩が大切な日課。  ベンチは何も言わないが、おばあさんをそっと優しく支えた。  いつしかおばあさんは来られなくなる日が来るだろう。  妊婦はいつしか妊婦でなくなり、2人の元気な子供を連れて、この公園に来るのだろう。  会社員らしき2人の女性も、子供を連れてこの公園を訪れるのだろう。  小学生たちはサッカーよりも大切なものが見つかり、公園へ足を運ぶことが少なくなるかもしれない。  いつもの時間、いつもの場所で落ち合う3人の老人たちも、いつしかここに足を運ぶことすら辛くなるときが来るだろう。  そして、2人の恋人は永遠の誓いを交わし、今度は子供と3人でここに来る日が来るかもしれない。  変わっていくものと変わらずにいるもの。  誰の記憶にも残らない物だけが持っている、記憶と情景。  ベンチは今日もそこで待つ。  様々な感情を持つ人を憩うために。  
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