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弓削の自宅マンションを離れると、紫はマザーGとともに自分の自宅マンションに帰った。紫のマザーGは20世紀に流行していた着せ替え人形の母親の顔によく似ている。アニメの登場人物のように大きな目には星が描かれており、最新の人工繊維でできた長い睫毛は瞬きするたびに音がしそうだ。
紫の母親はアンティークの人形が好きで、親しめると言う理由で自分のこどもを産む人工代理母にこの顔をつけさせたが、紫は幼い頃からこの顔が不気味に思えて仕方なかった。自分にとってちっとも親しめない物に面倒を見られ、気を使われ、両親がその言動に簡単に影響される。そのことに妙に居心地の悪さを感じ続けていた。
マザーGは家庭内で絶対の裁判官の役割を果たす。両親が揃っている場合育児の負担を細分に点数化し、足りていない方に鋭い指摘をする。
その指摘に従って与えられるものが本当に愛情からくるものなのだろうか。そんな風に、紫は何度も疑い、マザーGにも何度も相談したがマザーGの答えは一貫していた。
「育児に関する完璧なプログラムが組まれている私たちと違い、数人のこどもしか育てることのない両親の経験値の不足を責めては行けません。紫さん、ご両親は確かにあなたに愛情を持って接しています」
これとほとんど同じ内容を告げられ、それ以上聞くことは憚られた。
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