25人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は貿易省から宇宙探査庁に出向中の身だ。探査庁に出向してから九十年近くになる。そろそろ本省に戻れるころだ。いつも通り、宇宙港に隣接する宇宙探査基地に出勤した。隊長から指示を受ける。
「おはようございます。隊長」
「おはようございます、今日、内示がありました。三年後からは貿易本省勤務です。探査庁での最後の任務はわれわれが住んでいる天の川銀河のこの位置、ニ万五千光年からニ万八千光年の辺りの調査をお願いします。この区域の調査は私が新人の時に、探査した以来です」
女性である隊長が、ブリーフィングルームの三次元モニターに浮かぶ天の川銀河を見ながら言った。隊長は来年、千九百五十歳で定年退職する。最初ここに配置された時、お袋と同世代で奇麗な方だな、と思ったことを覚えている。
元ミス宇宙探査庁で若い頃は職員募集用のポスターに載ったこともあるらしい。今ではまず考えられないが、若い頃はどこかの惑星に短期間不時着したことさえある。超ベテランだ。それは、どちらも俺が生まれる前の話だ。
「隊長が新人の頃は、一人乗りの調査船で行くには、二万八千光年、ギリギリの距離だったでしょう」
「そうです。千ニ百年ほど前に私が調査した時は、恥ずかしながら事故を起こして、不時着してしまいました、その惑星がここ、地球。当時の調査船は今のようなオートマではなく、ナビもなかったんです。調査用の機材も……」
余計な話を振ってしまった。また隊長の昔話が始まる。この前、三十年間の新人研修を終えたばかりの八百十歳の若い俺。千九百五十歳の隊長は、俺も敬意を持って接するが、やや疲れる。
適当にうなずき興味深そうな顔をして、隊長が見つめるモニターに映る青い惑星を見ていた。
話が長い。聞き流し、俺は他ごとを考えていた。今日の朝刊の記事だ。天の川銀河で俺たちが、平均寿命二千五百歳で長寿銀河一になったとか。宇宙資源の有効活用について新しいルールが採択されたことなどだったかな。隊長の昔話が終わっていた。
最初のコメントを投稿しよう!