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「探査庁での最後の任務、気をつけて行ってください」
「はい、行って参ります」
俺は敬礼をしてから、ブリーフィングルームを後にした。隊長の若い頃と違って、宇宙船の不時着事故なんて、今は稀だ。
コンクリートで塗り固められた宇宙探査基地の駐船場に出た。朝、春の太陽が、並ぶ宇宙船たちを柔らかく照らしている。
最近は四人乗りの軽宇宙船、普通宇宙船はコンパクトな五人乗りが多い。役所の車なので、手入れされ、どれもしっかり洗ってある。
子を思う母のように、心配してくれるのはありがたい。五人乗りの調査船『探査クン3号』の前で佇む。
「探査クンとも最後だな、行こうか」
新人の俺には、新品の船はあてがわれない。どこの職場もそうだろう。走行距離の長い、この船もそろそろ廃船だ。
乗船定員五人だが、うちの職場では、運転席に探査隊員が一名乗るだけだ。『探査クン3号』は、探査基地配置の時以来の愛船だ。船体の運転席と助手席ドア、バックドアには、“宇宙探査庁”と文字入れされている。探査クン3号は、後部座席の後ろに小さく書いてある。
寄贈された宇宙船であり、天の川では有名な、某社会奉仕団体の名前も“××寄贈”と書かれている。宇宙探査に理解があり、ありがたいことだ。
最初見たときは、やっぱり古いな、自家用でなく商業向けに近いな、と思った。この船を操縦することがなくなると思うと少し寂しい。フロントガラスから船内を覗く。前部座席が二つ、後部座席は三人がけ。型式は大手メーカーの、ありふれた普通宇宙船だ。
「乗ろう」
正確にはガラス状の特殊素材だが、素材の正式名称は、習って覚えて忘れた。ドアを開け、運転席に座る。シートベルトを着用する。ナビに目標地点を入力する。ミラーと目視で周囲の安全をしっかり確認した後、キーを回し、エンジンをかける。
サイドブレーキを外し、ウインカーを出しながらハンドルを回し、駐船場(ちゅうせんじょう)を左折して発進した。
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