火傘

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むかしむかし、このあたりで傘の商人がいた。 商人は流行を見極めるのがとてもうまく、常に流行の最先端を行っていた。 しかし、商人の傘はどれも他の傘屋のものより倍近くの値段がした。 それでも、街の若い娘達はこの商人の噂を聞きつけて、流行の最先端を行きたい思いから、商人の傘屋はいつも長蛇の列ができていた。 当時は傘は買うだけで、修理はしない世の中だった。 それを商人は修理も引き受けるようになった。 『ボロボロになるまで使ってください。 それまでのメンテナンスは私がやりましょう』 倍近くの値段だが、物は良く、穴が開いたら修理してくれる。 その謳い文句のおかげで、若い娘だけでなく、老若男女問わず購買客が増え、以前にも増して、商人の傘屋は大繁盛した。 この大繁盛が嬉しい反面、怨みを買うこともある。 他の傘屋は売上が右肩下がりに落ちていった。 何とか立て直そうとするが、そう簡単に客足が戻ることもなく、一つ潰れ、二つ潰れ、一年後には商人以外の傘屋は全て潰れてしまった。
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