【五輪ピックとごり押し仕事】

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【五輪ピックとごり押し仕事】

「くっそ、明日の朝納期の仕事になんで今頃仕様変更が… あのクソ野郎いつか絶対殴ってやる!」 「物騒なこと言ってますねぇ。 まぁ、でも、その時は僕も呼んでくださいね。 お供しますよ」 そんな会話が聞こえる納品前のシステム開発会社。 来年にはオリンピックも開催されると言うのに2019年の 今となってもシステム開発会社とデスマーチは切っても切れない関係なのだ。 「あ〜ぁ、今日は早く帰るつもりだったんだけどなぁ」 「残念だが、これは朝まで確定コースだな。」 「先輩メシ食いました?」 「ああ、さっきパン食ったわ。」 「じゃあ、自分はちょっとメシ買ってきます。」 「おう、行ってらっしゃい。」 流石に二徹した後にメシ食うと眠くなってくるな。 少し外の風にでも当たるか… 非常口のドアを開け階段の手すりにもたれかかる。 すでに0時を過ぎているのでオフィス街の明かりもまばらだ。 寝不足をカフェインドリンクで無理やり動かしている体に夜風が涼しくて気持ちいい。 「こんな仕事してたら長生きできんなぁ」 思わず独り言が出る。 会社への泊まり込みと徹夜を続けてなんとか納期に間に合わせて 本来なら今日は定時で帰るはずだったのだが 定時終了間際に飛び込んできた仕様変更を明日の納期に間に合わせなければならないという事になり、急遽もう一日徹夜で対応する事になったのだ。 こんなに残業をしても給料はほんの少し 将来に年金も貰える見込みは薄いと来たもんだ。 あーあ、バブル景気なんて時代も昔はあったらしいし 給料もたくさん貰えたんだろうな~ 海外旅行とかディスコとか華やかな時代だったって言うよな 俺もそんな時代に生まれたかったぜ。 何気なくポケットに入れていたスマホを取り出して時計を見る さて、グチを言ってても仕事が終わるわけじゃなし …そろそろ戻るか 仕事部屋に戻ろうとした瞬間、立ちくらみ そこに突風が吹き、階段を踏み外してしまった。 しまった! と思った時には、もはや、なすすべなく落ちていくほかなく 自分の体が非常階段にぶつかる音がどこか遠く聞こえた。
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