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――――――――――――――――――――  ゲイブへ  あなたのお手紙を読んで、久しぶりに声を上げて笑いました。  親方さんのこと、奥様のこと、娘さんのこと、遠くから眺めているだけの私ですが、身近な方のように思えてきました。きっとご家族ぐるみで皆様仲がよろしいのでしょうね。あなたと親方さんがよい関係のようで安心しました。悪口のようなことを書いてしまい、申し訳ありませんでした。  親方さんと奥様はご年齢差がおありなのですね。素敵なお話だと思いました。ものの本によると、愛とは理性で割り切れるようなものではないのだそうです。私も、いまはわかるような気が致します。  面白いことなど書けないとあなたはおっしゃいますが、あなたがお話ししてくださることすべてが私には新鮮で、大変興味深いものです。どうぞそのようなことをおっしゃらず、あなたの思うままにお書きください。どのようなことでも、それがあなたから教えていただくことでしたら、私は嬉しいのです。  私の字をきれいだと言ってくださり、ありがとうございます。こうしてどなたかと文を送り合うのが夢でした。あなたと知り合ってからの私は、抱いていた夢が次々と叶っていくので怖いくらいです。  いつか、私に見せても構わないとお思いになることがあったら、絵を見せてください。      レア ――――――――――――――――――――  レアへ  お返事いただいてほっとしました。つまらないことばかり書いてしまっているのではないかと思っていたので。  今日は雨でした。  仕事は休みでしたが、俺は教会に来ていました。いつまでも神父様に代筆させるのは申し訳ないと思って、字を習っているのです。だけど、すごく難しいです。いままで全然勉強したことがなかったから、ひとつ文字を覚えるだけでも四苦八苦しています。  俺はペンを持つのに力を入れ過ぎているみたいで、すぐ紙が破けてしまうのです。神父様に叱られます。壁を塗るのとはまるっきり違いますね。  それでも、どうにか自分の名前だけは書けるようになったので、今日の署名は自分でします。  あなたが親方の話で笑ってくれたというので、もう少し書いてもいいですか。  親方は、元々は俺の親父の知り合いでした。十二の頃に親父が死んで、おふくろも身体が弱かったので、俺が働くことになりました。親方に話をしたら、ふたつ返事で引き受けてくれて、それで俺は職人になれたというわけです。  怒ると怖いけれど、いい人です。あの人がいなかったらいまの俺はないです。  そんな親方がいま一番気にかけていることは、もちろん仕事のこともあるのですが、やっぱり娘さんです。くるくるした巻き毛のかわいい子で、どこぞの馬の骨かわからない奴にはやれないといまから鼻息を荒くしています。娘さんはまだ三歳です。どんなに早くてもあと十年は誰のところにも行かないと思うのですがね。  この話を書いてくれと言ったら、神父様も笑っています。      ゲイブ ――――――――――――――――――――  ゲイブへ  お返事が少し遅れてしまいました。実はこのところ、少し体調を崩しております。朝晩冷え込むようになりましたので、風邪を引いてしまったのだと思います。  ですが、あなたのお手紙はとても面白く拝見致しました。読みながら笑っておりましたら、侍女に訝しげな顔で見られてしまったほどです。  娘さんのお相手をご心配なさる親方さん、大変微笑ましいですね。もしも気に食わないような方がお相手だったらどうなさるのでしょう。喧嘩になってしまったりするのでしょうか? お相手の方にはご苦労ですが、きっと、愛があれば乗り越えられるという類いのことなのでしょうね。  あなたは人を愛したことはありますか?      レア ――――――――――――――――――――
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