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――――――――――――――――――――  ゲイブへ  お手紙ありがとうございました。あなたのお気持ちはとてもよくわかりました。  私はあなたを苦しめてしまったのですね。どうぞ謝らないでください。あなたは何ひとつ悪くありません。悪いのは私です。私のわがままであなたにご迷惑をかけ、わずらわせてしまい、誠に申し訳なく思っております。  私がどれほどあなたに救われたか、あなたにはきっとお分かりにならないでしょう。あなたのお手紙はいつも私の心を癒し、寂しさや悲しみを和らげてくださいました。あんなに笑ったのは、久しくないことでした。まるで子どもの頃の、まだ私が万物に守られていると感じていた頃のようでした。あなたの伝えてくださることひとつひとつが、私には輝いて見えたのです。  あなたのお手紙を通じて、知らなかった人々を知りました。人と関わるということを学びました。あなたがいらっしゃらなければ、私はすべてを諦めたまま無為に日々を過ごしていたでしょう。そんな私を変えてくださったのは、ほかならぬあなたなのです。あなたが、私の世界に光を灯してくださったのです。  あなたと文を交わした日々は、私にとって人生最良の時でした。私は幸せでした。本当にありがとう。いくら感謝してもしきれません。  ですが、あなたを苦しめるのは私の本意ではありません。私からも、手紙を送るのはこれを最後に致します。  もうひとつだけわがままが許されるのならば、ここから、私の窓からあなたのお姿を拝見することだけは、どうぞ許していただきたいと思います。工事が終わるまでで構いませんので、何とぞご容赦ください。  お元気で。お身体にお気をつけて。あなたのお幸せをお祈り申し上げます。      レア ――――――――――――――――――――  その手紙を受け取った翌日、隣のおばさんがアップルパイを作ってくれた。しかし残念ながら、使われた林檎は教会の木の実ではなかった。あれは食べられるようなものではないからと、神父が採らせてくれなかったのだ。小鳥のためのものだとも、神父は言った。  おばさんのアップルパイは、すっきりとした、爽やかな風味がした。これは酸っぱい林檎で(こしら)えたのかと訊いたら、アップルパイというものは甘い林檎よりも酸味の強い林檎で作るものなのだという。甘い林檎で作ったパイは、くど過ぎて美味しくはないらしい。  アップルパイと、酸っぱい林檎。教会の木と、神父。あの方に知らせたい話だった。けれど、手紙はもう出せない。自分からやめると言ったのだ。  ゲイブは唇を噛んでいる。  なぜ、こんなに胸が痛むのか。なぜ、あの方にも食べさせてあげたかったと、苦しい思いをしなければならないのか。もう終わりにしたのだから、忘れるべきことなのに。  それからほどなくして、教会の工事は終わった。
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