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俺からの完全な拒絶に、忠成が背後で息を呑むのが分かった。
背中を向けているから見えないけれど、多分今、忠成は泣きそうな顔をしてるんだろう。
こんな状況下にあってもそんなことをつい考えてしまう俺は、相当重症だと思う。
「……秋連、ごめん。……俺、そんなつもりじゃ、なかったんだ……」
ややして、忠成が縋るような声音で一言一言区切るようにそう言った。だが、俺は敢えて無反応を貫く。
「お、俺、秋連にあんなことされて……どうしたらいいか分からなくてっ。自分のことじゃないって思って逃げ出したかったんだ……。ホント、ごめん!」
そこまで言ってから、小さな声でしゅん……としたように「自分のことばっかで、秋連や結衣の気持ち、考えていなかった」とつぶやく。
その声の感じから、俺の後ろで泣きそうになっている忠成の姿が目に浮かんできて……俺は我慢できなくなって振り返っていた。
案の定、子犬のような潤んだ目をして……両手を胸前でギュッと握り締めた忠成がそこにいた。その姿を見た瞬間、俺の中で氷付いていた気持ちが急速に氷解し始める。
「そこで謝るってことは……逃げるのをやめた、ってことだぞ? 分かってるのか?」
忠成を真正面からじっと見据える。さっきまでとは違って、冷たい目ではなく、俺のほうがどこか彼に救いを求めているような……そんな表情になっていたと思う。
「……っ!」
俺の言葉に、忠成が一瞬瞳を見開いて逡巡したのが分かった。ああ、また進展なしで有耶無耶になりそうだな、と心の片隅で溜息をついたとき、「……うん」と、いう声がした。
刹那、その真意が理解できなくて、俺は思わず忠成をじっと見てしまう。
「……俺、もう、お前の気持ちから逃げないよ」
が、今度ははっきりと、忠成は俺の目を真っ直ぐに見返してそう言ってきた。さっきまでの躊躇うような、戸惑うような瞳の揺れはそこにはなくて……俺は忠成が覚悟を決めてくれたことを理解した。
「そうか……」
忠成の言葉を噛み締めるように……俺はやっとそれだけを返す。
恐らく表面的にはいつも通りのポーカーフェイスで――。
でも、実際心の中は全然穏やかじゃなくて……。
今すぐにでも忠成を押し倒してしまいたい衝動を、理性を総動員して押さえつけている真っ最中だ。
しばらく自分の感情と闘った後、俺は忠成を見据えてふと思い出した体を装って、言わなくてはいけないと思っていたことを口の端に載せた。
「……その、この間は俺が悪かった。あんなことするつもりじゃなかったんだ。お前が俺を受け入れてくれるまで、絶対に手なんて出すつもりはなかった……」
どういう状況であれ、俺を信じ切ってくれていた忠成を、俺は裏切ったのだ。
心底申し訳ないと思っている。
「……けど」
そこまで言って、忠成には分からない程度に、俺は唇を噛み締めた。
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