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けど、と言って言葉を区切った俺を、忠成がどこか不安げな表情で見つめてくる。
「……お前が彼女だのなんだの言うから焦ったんだ。今、何とかしとかないと取り返しが付かなくなると思って……」
そこまで言うと、無性に恥ずかしくなって、俺は初めて忠成から目を逸らした。
こんな風に感情を吐露するのは俺らしくない気がして。
「……ね、秋連、それって……ひょっとして……ヤキモチ?」
こういうときに限って、どうしてこいつは追い討ちをかけてくるんだろうな?
「……ったり前だろっ。俺だって……嫉妬くらい、する……」
言ってて物凄く恥ずかしくなった俺は、今度こそあからさまに彼から目を逸らす。こんな情けない姿、忠成には見られたくない。
俺はくるりと踵を返すと、机に置いたままの眼鏡を手に取った。それをかけると、俺は仮面をつけたような感覚に陥って、少し冷静になれる。
眼鏡をかけただけで、さっきまでの動揺なんて嘘みたいに俺は不遜な態度になれた。
俺の豹変振りに気が付いた忠成が、思わず一歩後ずさる。
そんな忠成を逃がさないよう、彼が下がった以上の距離を削ると、俺は余裕の笑みを浮かべて忠成を見下ろした。
「同性相手にいきなりこっちを見ろ、というのは難しい話だとは思ってるよ。……だから、とりあえず今はお前が逃げずに考える、と言ってくれただけでも良しとするさ」
逃げ腰の忠成をなだめるように……声のトーンを柔らかくしてそう告げる。
俺の言葉に、忠成がホッとしたように笑顔になった。
「……じゃ、じゃあ、もう手は……出さない?」
安心しきったように俺の顔を見上げてくる忠成が凶悪すぎるくらい可愛くて、俺は理性が吹っ飛ぶかと思った。
「……けど、まぁ、逃げようとしたお仕置きをするくらいは許されるだろ?」
油断しきった忠成を素早く絡め取ると、両手をひとまとめにして壁に押し付け、彼を見つめてにやりと微笑う。
「秋、連……?」
不安そうに俺を見返す忠成の瞳が揺れて、それが凄く蠱惑的に見えた。
(誘ってんのかよっ)
俺は当然の権利のように忠成のあごを掴むと、その唇を塞いだ。
「……んっ」
怯えたように微かにもれる忠成の吐息が、堪らなく愛しい。お仕置きだから、もちろん、軽いキスだけで済ませてやるつもりは毛頭ない。
俺は忠成のあごを押さえたまま、その角度を深くした――。
だが、まぁ、これ以上先に進むのは――もうしばらく待ってやってもいい。
そう、もうしばらくは、な。
-Fin-
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