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「……忠成、ちょっと、手ぇ、貸せ」
しばし後、思案気にうつむいていた秋連が、そう言って手を差し伸べてきた。
「ん? あ、あぁ……」
急に破られた沈黙に戸惑いつつ、彼の手に片腕を預けると、秋連は俺の服の袖口に鼻を寄せた。
「……やっぱ臭い?」
五月の上旬。
まだ本格的に汗をかくようなシーズンではないけれど、秋連のその仕草に、一瞬風呂入ったっけ?とか思ってしまう。
いや、今はそれよりもフェレ臭のほうが問題か。
そう思い直して恐る恐る問いかけると、
「自分ではどう思うんだ?」
逆に問いかけられた。
秋連の視線に促されるよう、自分の袖口を嗅いでみると、洗剤のニオイにまぎれて微かに俺自身の体臭が感じられた。
「洗剤と、俺のニオイがする」
正直に感じたままを口にすると、
「お前の鼻は本当にニョロのニオイだけ除外して嗅ぎ分けるみたいだな。俺には洗剤の香りを押し退けてあいつのにおいが迫ってきたぞ」
苦笑交じりにそう返された。
やっぱり……。
愛フェレの名前をサラリと交えて告げられた言葉に、俺は正直ショックを受けた。
分かっていたけれど、明確に言葉にして告げられると、痛いな、と思った。
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