倒錯

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倒錯

警察庁祓魔課の来訪 異世界ツアー温泉観光編  それが、どこで起こっているのかは誰も知らない。  暗黒に染まった広い場所で、かつてジル・ド・レと呼ばれていた一人の悪魔は、戦慄と共に目の前に広がる光景を見つめていた。 「どう?行けそう?羽村さん」  一瞬、それが自分の名だとは解らず、ややあって羽村は応えた。 「私は神に背いた狂人です。多くの命を奪った。しかし、この男はサッパリ理解いたしかねます。一つ言えることは、この男は完全に狂っている。この世で最も倒錯した人類です。制御出来るとは思えません。この男に比べれば、私などただの乱暴な人間にすぎない」 「ふうん。青髭にここまで言わせるなんて大したものね。地獄から帰ってきた倒錯者。ねえ、私ならどうするの?」  美しい幼女に問われて、今しがたまで死体を損壊していた男は、不意に顔を上げた。  一見して、冴えない風貌のしょぼくれた老人だった。  老人は、今しがたまで水を浴びていたのだった。  ただの水浴びではなかった。ちょうどいいくぼみがあったので、そこに身を沈めたのだ。  抱えきれない量の死体を抱えて。  闇の中で、殺した者達の血を全身に浴びていたアルバートは、禍女の皇を見た瞬間、萎びた生殖器がみるみる屹立し、触れてもいないまま、精液を噴き出していた。 「あーーああ。あああ」  アルバートは、恍惚の声を上げた。 「正直に言いなさい。私をどうしたいの?地獄で散々食らった責め苦は全てあんたにとってご褒美みたいなものでしょう?陰嚢の針はまだ沢山刺さったままだし。ここには百人いたのよ。その中で普通に殺し合いをさせた。真っ先に殺されるはずのあんたは見事生き残り、今もええと、ああ、西太后の内臓をかき出し、空っぽになった西太后の肛門を犯し続けていた。あんたはエリザベート・バートリの血の風呂を本人の血で再現してる。たくさん殺してたくさん犯した異常者。私をどうしたいの?アルバート・フィッシュ。応えろ」  皇帝眼が光を強めた。アルバート・フィッシュは、フラフラしながらこう応えた。 「あ、あの、き、君の尻を棍棒で打ち、十分に柔らかくなってから、君の尻肉をそぎ落として、美味しく焼いて食べてみたい。君の首を落として、眼球を串揚げにしてタルタルソースをかけて美味しく食べたい。一週間かけて、君を食べ尽くしたい。私は裸で、ぶら下げた君の空っぽになった死体を見ながら自慰に耽りたい。何度も何度でも、君の血を全身に浴びながら」  予想通りの返答が返ってきた。 「本当に倒錯しきってるなお前は。お前はキチガイだとは思うが、電気椅子がふさわしいという言葉は正しい。おめでとう。お前は二人目の僕だ。名前をくれてやる。魚住さんだ。存分に闇を作れ」  アルバート・フィッシュの枯れ木のような体が、黒く染まっていった。  禍女の皇は、近くにいた者達に振り返った。 「にいに。雷光鞭はどう?」 「うん。いいよヤコ。この前屋上で全員殺したと思ったのに」 「宝貝作成はそう難しくないわ。むしろこっちの方がレア度は高いわ。地獄の空気を吸った邪器(ダーケスツ)は今も地獄で振るわれるのを待っている。ソウルスライサーに続く武器をどんどん拾っていかないと。そういえばママ。お腹は大丈夫?もう随分大きくなってない?」 「ええヤコ。爬虫類に拘らない貴女の着想は見事だわ。強い子が生まれそうよ」 「そう。もう少しここにいましょう。城は住み心地いいし。引っ越しはもう少しかかるもの。おじちゃん、細かいところは任せたわね」 「承知しました。我が君よ」  深く傅いた羅吽は、禍女の皇の背後に聳える城を見上げた。  地獄版仮定的存在の城。ゴツゴツとした異様な禍々しい城が見えた。  地獄に直結したこの城は、有史以前から存在した多種多様な殺人鬼がひしめき、禍女の皇に呼ばれる日を、今か今かと待ち続けているのだった。
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