腐敗と廃屋と

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腐敗と廃屋と

ふふ、ふふふ。ここです。 奇っ怪すぎる神楽坂に案内されたのは、住む者のいなくなったさほど大きくない西洋建築だった。 「右島さんが発見しました。右島さんの霊感と、私の自動書記能力が、ここを事件の舞台と認定したの。これが私の絵」 見せられた絵にはどこまでもサイコな筆致で、捻れた人体と思しき陰影が書き込まれていた。 家の中に入った静也は、鼻をひくつかせた。 「人間の匂いがする。1、2年前だな」 「恐らくは女だ。風間ほどではないが、俺も匂いで外界を認識している。地下だな。地下に降りてみよう」 影山は廊下を進んでいった。 紀子は吹き溜まった雑霊を散らしながら言った。 「早速こんな件で呼び出してごめんなさいね。ユーリ。うちの不良教師によると霊感と魔力はまあ似たようなものらしいけど。見える?感じる?はい木剋土。木気で死者を剋した訳ね。死者は土気だから、木気で剋するのよ」 「モンスターの中にはゴーストと言った所謂実体を持たない存在もいる。君の後ろに黒い魔力が。ふっ!」 ユーリの剣閃が一閃し、雑霊を切り裂いた。 「この世界はアースツー同様魔力に満ちているのは王陛下から聞いている。私の技術はお役にたつだろう。こっちの犬は中々いい犬らしい。発情していなければ有能な猟犬になるだろう。我が邦の犬は年中発情していて始末におけない。始終嫁と愛人とイチャイチャしていて心底殺意が湧く」 なあ、ところで。こほんと咳き込んで、ユーリディス・ニルバーナは急に話題を変えた。 「影山さんと風間静也だが、妙に仲がいいな。そうか。そうなのか。出来ているんだなあの2人は。私は確かに国王と王妃の弟子だが、実際心の師匠は別にいる。ブリュンヒルデ・レトナシワ。ペンネームはウラスジ・ペロリンティーナを名乗っている。異様な執着をもってオーラルプレイを書き込むアングラ絵師なのだ。私の見たところ静x影、いや、実際は影x静な気がする。どうだろう?ところで紀子、イケブクロってどう思う?今度行かないか?」 王様発情犬扱いの上、ユーリは骨の髄まで腐っていた。ペロリンティーナってどこまで馬鹿か。 ああ。こりゃあ結婚も妊娠もないわね。 遠目から鬱陶しい視線を送っている新しい人材を、紀子は直視する気概を失っていた。
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