そいつの名は

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そいつの名は

勘解由小路が総理からの電話をどうでも良さそうに応対していた。 「俺が飛ばされたから間違いない。確かに異世界はあった。惑星面積は地球と同寸で、解り易く言うとまんまドラゴンクエストとボールの世界だ。基本平和だったから行ってみりゃあいいだろう。まあ他国の国賓とかを理解出来るかは解らんぞ。自衛隊連れていけば即全滅させられるぞ。魔法戦闘国家を未開と侮るなよ。文明レベルは日本とほぼ変わらん。それでいて徴兵制すらある。いざとなれば命令一つでドラゴン素手でひねり殺す世界最強の百姓が単騎突入かましてくるぞ。絶対に国王の機嫌を損ねるな。星の趨勢すら管理する男だ。寧ろ政治的に警戒すべきは国王の愛人だ。プラチナブロンドのいいおっぱいの女王だ。JKと変わらん年齢で恐ろしい洞察力だ。病原菌の心配はないから好きに行ってこい。国交結びたきゃあ好きにしろ。年間国民が100人くらい死ぬだろうが。じゃあな」 騒ぐ総理を黙殺して通話を切った。 「悪い島原。今後のことを話し合おうか」 島原は、呆気にとられて電話に耳を傾けていた。 「異世界だと?流石に言葉を失うな」 「真面目な話、無数にある世界の中で日本に一番友好的な世界ってだけだ。今から300年前、かーー引きこもりのニートがそこに飛ばされ、以後魔王として君臨し、日本的思考が根付いた、近代化した幕末の日本に近かったが、進歩の仕方がおかしかった。明治期の人間が携帯持ったらこうなる。と言う世界だ。そこで勇者やってた奴が八王子に飛ばされ、以降何度か付き合いがある。世界を救っちまって王様になっちまうとか驚きだな」 どこまで出鱈目か。こいつは。 あと、か、って何なんだ? 「よくそんなのと平然と付き合えるな」 「そうじゃないんだ島原。そもそもの話が、あいつが八王子に飛ばされたのもそいつの存在ありきだった。俺との出会いは俺が退院した辺りの頃だった。そいつを中心に世界が回っていた。あたかも宇宙創造の女神の如く、そういった力強い非常識を吸い寄せる引力を持った欠食児童。恐らく、今回の事柄も、そいつが絡んでいる可能性が高い。あいつの、ジョナサン・エルネストの嫁を引き寄せたのも考えてみればそいつの存在があった。その内お前とも絡むこともあるだろうな」 「誰だと言うんだ。そいつは」 「八王子のトリックスターだ。そいつは、今頃普通にジョナサンの側にいるだろう。あの欠食児童、死々戸(ししど)迦風花(けふか)はな」 金なくなって皿でも洗ってるのかな? 勘解由小路はそう言った。
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