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登場
その日、狐霊堂学園2年A組は妙に殺気立っていた。
風間静也と影山は、まだ完全撤去が済んでいない校庭の柱の上を縦横無尽に飛びすさみ、激しい乱取り稽古に励んでいた。
「影山さん。そんな所にいたら危ないわよ。落ちたら怪我しちゃうわ。骨だって折れちゃうもの」
日傘をさした涼白さんは、心配そうに柱の上に立っていた。
「下がっていろ涼白!危ないのはお前だけだ!行くぞ風間!」
影山は跳躍し、アルコルハンマーを振り上げた。
理由ははっきりしていた。本当に守りたい娘を、命よりも大事な妹を、みすみす目の前で殺されるところだったのだ。
無様に這い蹲った状態で、妹を殺されるところを見せつけられるところだった。
もう涼白の足の傷は癒えていても、影山の心の傷は全く癒えていなかった。
影山も静也も、焦燥に駆られていた。
あの禍女の皇のインパクトは強烈だったのだ。
戦闘にすらならなかった。軽くあしらわれたのだ。
勘解由小路親子がいなければ、無抵抗なまま皆殺しにされていてもおかしくはなかった。
静也は静也で、突如現れた弟の光忠の存在に、驚きを隠せなかった。
仙界最強の宝貝雷光鞭を手にしていた。
持ち主である申公豹を殺したらしい光忠に、大きく差をつけられていた焦りがあった。
また少し大きくなったな光忠。もう大学生くらいだった。口調は全く幼いが。
このままにしておく訳にはいかない。静也は、アルコルハンマーに真っ向から激突した。
校庭に赤い光が満ちていた。
「もう。危ないって言ってるのに。紀子ちゃんからも言ってあげてよ」
紀子は紀子で精神修行中だった。校庭に座り込んでいた。
「結果無事だったけど、禍女の皇だっけ?あの子の目に対抗する方法を考えてるのよ。改めて解ったわ。向こうにも出鱈目がいたって。あいつ等単細胞だから、とりあえずバトってるだけよ。危ないからあんたも降りなさい。スカートの下のパンツ見えちゃってるわよ」
慌ててスカートを押さえた涼白の姿があった。
「ええ?!いや!きゃあああ!」
バランスを崩して、涼白が落下した。
「涼白!」
影山は大声を上げた。実際涼白は爬虫類系妖魅であり、落ちたくらいで怪我などする訳がない。ひとえに影山が過保護なだけだった。
日傘を持ったまま落ちた涼白は、突如現れた若い男にお姫様抱っこで受け止められていた。
「ひ、ひえ?あ、あ、あの」
涼白をお姫様抱っこした上、男は顔を近づけて、涼白のうなじに顔を突っ込んでクンクンした。
「危ないぞ。こんな高いところで」
男は柔らかい笑みを浮かべていた。
突然現れた挙句お姫様抱っこされ、そんな笑みを見せられたら、男性に免疫のない涼白は真っ赤になって俯いていた。
それで済むのは涼白だけで、それに複雑な思いを寄せていたシスコンはいきり立っていた。
「涼白から離れろ!変態人間!」
やおらアルコルハンマーを振りかざして襲いかかった。
が、男の前で足を崩してスッ転んだ。
「何だか知らんが危ないじゃねえか。いきなり突っかかるなよ。ええと、モンスター人間」
分類は若干おかしかったが正しくもあった。
「足が動かん。何だこれは?」
「お前みたいな喧嘩っ早い奴にちょうどいい手管って奴だ。立てるかい?」
「は、はひ」
真っ赤になった涼白は慌てて立ち上がり、スススと三歩下がった。
「敵か?お前は?涼白のうなじの匂いを嗅ぐなど許さん!風間!揃って行くぞ!斬獲してやる!」
静也と影山は揃って男に襲いかかった。
男の動きは早かった。一瞬、周囲は闇に包まれ、数秒して闇が晴れた時、すっ転んだ静也と、その上に座り静也を封じた上で腕を捻りあげられ、首筋に銃口を押し付けられた影山の姿があった。
たった一人で、2人の化け物を完全に無力化していた。
誰か知らないけど、強い、この男。
「うん。アースワンの現状が見えてよかった。千代田区だっけ?意外とこういう奴いるんだな。学校見学してたらいきなり当りだったか。なあ、お前から知ってる奴の匂いがするんだけど、ゴーマはどこにいる?ゴーマと、嫁さんと多分子供の匂いがする」
え?匂いで把握?静也みたい。何この犬みたいなおっさん。
「ちょっと待って。影山さん落ち着いて力抜きなさい。ゴーマって、うちのろくでなし教師に何か用なの?貴方は誰?」
ああ?いや、まあ。うん。男は頭を一掻きして言った。
「俺か。俺は異世界アースツーから来た。学園国家アカデミーの国王やってます。友達に会いに来たんだ。嫁さんと生徒を連れて」
「ダーリン!職員室にいるんじゃない?!教師って言うくらいだし!そんなの放っといて行きましょう!いざとなったら、ひまわり嗾けりゃいいじゃん!」
ふと見ると、紀子と同じような年頃のプラチナブロンドの美少女の姿があった。胸を強調したドレスを纏っている。
「こっちの世界にきたら暴れるなと先生に言われています。平和主義です。国交断絶になっちゃいますよマリルカ」
妙にちっこい娘が言った。一個下くらいか。その割には妙に落ち着いて見えた。
活動的なTシャツにデニム生地のスカートを履いていて、すらりと伸びたカモシカのような足が見えた。ただ、Tシャツにプリントされたクマは何だ。
静也が彼女達を一瞥して言った。
「何だろう。ほぼ全員から母親の匂いがする。全員子持ちじゃないか?参考にすべきだ紀子」
え?母親?ってまじか。あとうるせえ。
「ねえ王様。奥さんて、誰?」
王様を名乗る男は、いたたまれない様子の亜麻色髪の女の人の肩を抱き寄せた。若いセレブな奥様風の装いだが、豊かなバストは隠しようがなかった。
「うん、奥さんのフラさんだ」
「じゃあ、そっちにいる子達は?」
「あー。まー。色々あったんだ。今は俺の恋人をしている」
嫁と愛人連れた国王気取りの変態が現れた。
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