黄色い傘

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 駅を出た時には小降りだったのに、空から降る雨は大粒になってきていた。たまらず本屋の軒下に避難する。  この日は平日だけど私の仕事はお休み。たまには親の顔を見に来なさいという母親の命で実家に帰るところだった。でも、こんな雨が降るなら家でゴロゴロしているんだった。  仕事を始めて二か月。まだまだ慣れないことが多い。学生時代が懐かしいけれど、友達は土日が休みで昼間は中々会えないし、夜は夜で仕事上の付き合いがある。  分厚い雲が広がる空を見上げた。 「これ使って」  いつの間にか目の前に黄色い傘があった。 「お姉さん、これ使って」 「えーと」  身長が低くて傘が喋っているように見えたけれど、隙間からにっかり笑った五歳ぐらいの少年が顔をのぞかせた。 「ここ置いておくね」 「あ、ちょっと!」  少年は小さな黄色い傘をちょこんと地面に置いて走っていってしまった。
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