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「わぁ……」
遼馬に連れられてやってきた小さなコーヒー専門店には、様々なコーヒーの奏でる複雑で奥深い香りが漂っていた。所狭しと並べられたコーヒー豆は酸味、ボディ、コクの要素が5段階で評価されており、似通ったバランスの豆の中で代表的なものが試飲できるようになっている。
「遼馬はいつもここでコーヒーを買ってるの?」
「うん、新しい豆を試すのが楽しみでね。僕はボディとコクの強いどっしりしたコーヒーが好みなんだけど、馨さんはどうかな?」
彼に促され、『店主オススメ』と書かれたコーヒーをいくつか試飲してみる。
「んー、私もそっち系のほうが好きかも」
「そう?じゃあその系統で僕のお勧めを買っていこうか」
遼馬の笑顔につられて私も唇が綻ぶ。……嬉しかった。コーヒーの好みが似ている、ただそれだけなのに。
やっぱり恋なのかな、と小さく呟く。でも、こんなに幸せな気分になれるなら、この際出処がストックホルム症候群でも構わない。
会計を済ませて、いそいそと戻ってくる遼馬に。
「ね、……手、繋いでもいい?」
彼は一瞬びっくりしたようだったが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「もちろん。……恋人同士みたいだね、馨さんは嫌じゃない?」
嫌なわけないじゃん、と笑って遼馬の手を握る。
「早く飲んでみたいな。あ、何か甘いもの、買って帰ろ?」
「じゃあ、近くに美味しいパティスリーがあるから寄っていこう。……馨さんもきっと気に入ると思うよ」
美味しいコーヒー。美味しいケーキ。そして何より、遼馬とそれらを囲む時間が、楽しみで仕方なかった。
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