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私を眠りの海から引き上げたのは、コーヒーの薫りだった。……ゆっくり瞼を開くと、ベッドに腰掛けていた遼馬と目が合う。
「あ、起きた?ちょっと待ってて、君のぶんも淹れてくるか……うん?」
……私の手は無意識に、彼の服を掴んでいた。
「……ここにいて」
唇も勝手に言葉を紡ぐ。どうかしている。
まあ、どうかしているのは元からだが。
「……うん。あ、じゃあこれ、飲む?ブラックだけど」
頷いて、差し出されたカップを受け取る。
「……ブラックでも美味しい」
今までは、コーヒーイコールカフェイン源、くらいにしか認識していなかったのだが。
「それはさっきのとは違う豆だよ。外出できるようになったら、一緒に君の好きな豆を選びに行こうか?」
「……私はあんまりそういうの詳しくないから、遼馬が選んでくれたほうがいい」
違いまでは、よくわからない。
「そう?まあ、それはそれで楽しみだけど。……食欲のほうは、どう?何か食べられそうなものは?」
……食べられそうなもの。正直あまり食欲はないが……
「くだもの、とか、ある?」
「うん!りんごとみかん、どっちがいい?」
「……じゃあ、りんごで」
待っててね、と。嬉しそうに隣室に消えていく彼を見送って。
「何やってんだろうなぁ……」
思わず口から零れた言葉の主語が誰なのか……それは、私にもわからなかった。
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