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「うーん……」
絵と実物の遼馬を見比べて首を捻る。やはり、無機物を描くのとは大分勝手が違う。
まず、人体には直線がない。平面もない。……そしてなにより、今まで描いてきた刃物のような冷たさがない。
「ね、ちょっと覗いてもいいかな?」
そういえば、彼は絵描きを目指していたのだった。
「うん、アドバイスもらえると助かる」
プレゼントを開ける子供のような顔でスケッチブックを覗き込む遼馬。
「……君が描く刃物は凄く冷たかったけど……僕のことは温かく描いてくれて嬉しいよ」
温かい絵、というと『下手』をオブラートに包んだ表現にも聞こえかねないが、彼の言葉はなぜか素直に受け止められた。
「影の付け方とか、難しい……」
「君の絵の魅力は『温度』だよ、好きなように描けばいいと思う。上手く描こうとするんじゃなくて、感じたままを表現したほうが良いんじゃないかな?」
温度、か。
「じゃあ、私にとって遼馬は温かい存在、なのかな」
「……そうだと嬉しいな」
遼馬の表情は、……彼の言葉を借りるなら、とても『温かく』て。
「ね、これ飾ってもいいかな?記念すべき第一号の作品として……」
「流石にそれはやめて」
折角描いてもらったのに、と残念そうな遼馬だが、せめて納得のいく作品として仕上がってからにしてほしい。
「このサイズなら僕のデスクに飾れるけど、それも駄目かな?」
どうにも諦めきれないらしく、仔犬のような瞳で訴えてくる。
「……納得いくものが描けたら飾ってもいいけど……それ、まだデッサンだし……」
「デッサンの状態でも十分だよ。というか君がSNSに上げてたのはみんなデッサンだったじゃないか」
そう。私は絵に色をつけるのが大の苦手だった。
「僕の目から見て、君の絵はデッサンの状態で一つの作品として完結している。……色をつけたら、この絵の魅力を覆い隠してしまうと思うんだ」
……そんなものだろうか。私には、よくわからない。
「……遼馬がそう言うなら。じゃあ、デッサンとして私が納得いくまで描けたら飾ってもいいよ」
「よかった!ありがとう。すごく楽しみだよ!」
幸せそうな顔で椅子に戻る遼馬の姿は、たしかに、私の心を「温かく」するものだった。
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