モノクロの温度

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「……うん。できたよ!」 「ほんと?見せて見せて!」 遼馬が私の絵を描きはじめてから、一週間ほどは経っただろうか。カレンダーどころか時計も、窓すら無い部屋なので正確な時間はわからないが、意外と早く彼の絵は完成した。 「これはデッサンだけど、今度は油絵を描きたいな。あぁでもパステルのほうが温かみが出るかな?それとも……」 嬉しそうに語る彼の言葉を聞き流して、キャンバスを覗き込む。 「すご……」 流石に美大を目指していただけのことはある。 「これは、塗り潰さないでくれる?」 「もちろん!」 たとえ絵でも、君の顔を塗り潰すなんて僕には出来ないよ、と笑う遼馬。 「……絵を描くのがこんなに楽しかったのは久々かもしれないな。君のおかげだよ……って、え!?ちょっと、どうしたの!?」 一体どうしたのだろう。自分でもわからない。 ……私はいつの間にか、遼馬の温かい笑顔に吸い寄せられるように彼を抱きしめていた。 「……好きに、なっちゃった……の、かも」 まだ確信はないけど、と前置きして続ける。 「私の絵、沢山描いて欲しい。……それで、遼馬にも笑顔になって欲しい。……これって、多分、好きってこと……だよね?」 いつ以来だろう。この、言葉にし難い、くすぐったい感情。 「……だと、嬉しいな。ついでに、君が僕の大好きな君自身を好きになってくれるとなおいいんだけど……そういえば、あれから安定剤は飲んでないのに切りたい、って言わなくなったね?」 そういえばそうだ。あれから、一度もリストカットの渇きに襲われていない。 「そうだね、遼馬のおかげ、かな。……痛みがなくても、生きてる、って思えたから」 それはよかった、と微笑む遼馬。 「じゃあ、少し外に出てみようか?そうだ、コーヒーの試飲ができるところを知ってるんだ。そこに君の好みの豆を探しに行くのはどうかな?」 「うん!行ってみたい!」 忘れていた感覚が、次々と甦る。わくわくする、嬉しい、温かい、……『好き』。 もし、血に染まったこの手でも運命の赤い糸が掴めるのなら。 その先は、遼馬に繋がっていてほしいと、そう願った。
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