序章

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序章

 トラックの音で目が覚めた。鋭く響くクラクション、金切り声のブレーキ音。それが夢だったのか現実だったのか、町田由亜にはわからなかった。荒い息で、ベッドから勢いよく起き上がった時にはすでに、自分が何の夢を見ていたのか、そもそも夢を見ていたのかさえ曖昧になっていた。  おぼつかない足取りで日めくりカレンダーのもとへと進む。ピリッと破って現れた日付は“八月二十五日”だった。日曜日である。  蝉の声がうるさい。外の熱を擬音化したような音。  ぼんやりとした意識のまま髪をとく。背中まで伸びた髪が櫛のもとでほどけてく。髪のほつれに引っ掛かった時に、由亜はハッと覚醒した。同時に、鳩時計が十回喉をならし時を告げる。 「今日、凜太が来る日だったあっ!」
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