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真夏のある晩、ソレは俺の部屋に現れた。
テレビの正面に折りたたみ脚のミニテーブルを置き、そこにあぐらをかいて晩酌をしながらアニメを見ていた時に。
テレビの左横、閉め切った白いカーテンの上部。何気なくチラリと目を向けた際、俺の視覚センサーが黒いナニカを捉えた。
『白い壁に、何故ごく一部だけ黒い箇所が存在しているのか?』という違和感から始まり、解析が進むにつれ、違和感が驚愕に、驚愕が恐怖に、恐怖が警報に、警報が発汗へと発展し、ほろ酔いだった俺の意識を現実世界に強引に引き戻した。
Gだ。
敵だ!
台所や洗面所を好むソイツは、一匹出現すれば他にも数十匹の予備部隊が潜伏していると言われ、三億年以上前から地球に生息しているとも言われ、『生きた化石』という異名を付けられ、この日本では忌み嫌われる昆虫のトップに君臨している。
『火星でも生きられる』とか『核戦争後も生きていける』とかいう凄い噂のある、あの『G』だ。
それも、かなりデカイ。
テレビから1.7メートル離れてあぐらをかく俺からGまではそれなりの距離があるが、それでもその姿形がはっきりと見える。
目測だが、最低でも4センチはあるだろう。
ホントにデカイ。
俺の脳が全ての不要情報を破棄し、全神経をGに集中。警戒態勢に入る。
『目標、2.2メートル上部! 戦闘用意!』
そこまで電気的に思考したところで、俺は身動きが取れなくなった。
1人暮らしを始めて2年目の夏。入居以来、Gは一度も出現したことが無かったために、対策グッズを買っておくのを完全に忘れていたのだ。
つまり、今の俺は丸腰も同然。
Gへの対抗兵装が何一つ無いのだ。
Gは俺が硬直しているのをいいことに移動を開始。カーテンからカーテンレールへ、カーテンレールからまた壁へとハイハイして、1メートルほど右へ動き、テレビの真上に来た。
まずい。
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