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一週間ほどたった土曜日デートの待ち合せ場所の公園で、ベンチに美加は腰を下ろしている。満天の星たちの下で公園灯が、美加を白く包んでいた。僕に向けた美加の表情は、少し寂しそうだ。
「雨降りそうにない。今まで、ネットで出会った男性は、私の仕事をしているって言うと、次に来てくれなかった。次に来てくれたの俊樹君が初めて」
「だって、そういう仕事は絶対必要だよ」
過去に、ネットの出会い系で、悪い男に引っかかったのだろうか。
ガードが緩いと口説いてくる男とかだ。僕もゲームで女性IDを使ったことがあるから知っていた。
美加は、動きやすいショートカットの前髪を指で弄っていた。
「俊樹君みたいな、きれい好きな人はどう思ってる?店に怖い人も来るし」
この前の別れ際と同じ質問だ。俺ははっきり言い切った。
「僕は気にしないって」
「じゃあ、俊樹君も、うちみたいなお店を利用したことあるの?」
美加は正直に自分の仕事を打ち明けたのだ。俺も正直に言おう。
「どうしてもっていう時はあるよ」
白い喉をくつっとさせて、笑い声がする。興味深そうな瞳が僕を射抜く。
「その言い方、気になるなー。慣れてる言い方だよ?」
「な、何度も行ったことがあるよ」
こういう質問を、女性から聞かれるのは初めてだ。店の光景が脳裏を掠めた。体が火照る。
「俊樹君。頬が赤くなって汗ばんでる。わたし、仕事のたびに汗だくになる人なの」
美加は自分のポケットから取り出したハンカチで、僕の顔の輪郭をなぞる。
うつむき加減に悔しそうな、美加を説得する。
「仕方ないよ。それが体の正常な反応なんだ。ぼ、僕だって店では熱いよ」
確かにあの種の店では、熱気を感じる。美加のハンカチを持つ手が少し震えていた。
美加が不安定な感じがして心配だ。
僕には興味津々という感じで、質問しているようだ。
「俊樹君は、どういう風に店を選ぶの? 他のお店のことも教えて欲しいな」
「僕の行く店では、入り口のすぐに、時間と料金のコースの一覧が張ってあるんだ。美加なら分ってくれるだろうけど、その日ごとに違うでしょう? ハンカチは洗って返すね」
僕は、美加と手が触れないようにしていた。指で摘んだハンカチがアーチを作る。
美加が首を横に振っていた。
「いいよ。わたしがお店で洗うから」
美加はこくりとうなずき、いたずらっぽく笑っている。僕がハンカチから手を離せば、美加が丁重に畳んでいた。
「俊樹君ってとっても正直。それで、その後、時間とかどういう風にしてるの? ほかのお店について詳しく聞きたいな?」
「えっ? 勉強熱心だね。僕の場合は短い時は20分、長い時でも40分のコースかな。出張先でも行くね」
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