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月が見えない夜、傘を差した美加の頬は、雨に叩かれていた。
「恵みの雨。わたし、×××ランドの女なの」
僕の傘は、内側で雨粒の音がこだまする。
「ごめん、美加、雨の音で聞こえなかった」
「楽しかった」
美加は笑みを浮かべて、踵を返す。後ろ姿は色とりどりの傘をさす人波に消えた。
残された僕には、アスファルトが雨に濡れる匂いだけがする。
オンラインゲームで知り合った美加とは、数回目のデートになる。すでに、次のデート約束は取り付けた。
僕も美加も、ネット回線でははっきり喋る性格だ。
だが、現実で出会えば、互いに緊張してしまう。
僕も傘を肩にかけ直す。駅に向って歩き出したら、呼気と一緒に雨粒が入る。舌の上で埃っぽい味がした。
***
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