1.inside

2/11
前へ
/25ページ
次へ
寝室から別室に入ると、大きな3段ワゴンに金属蓋で覆われたコース料理が届いていた。 続き部屋を持つスイート室の特徴で、玄関から入ってすぐの主室には、簡易バーにありそうなサイズの洒落たウッドテーブルがある。 重厚な椅子を引いて座ると、ウッドテーブルの上には上品なクロスが掛けられ、スプーンやフォークは既にセットされているようだ。 ふと前を見ると、対面する席には何も置かれていなかった。 「あの、死神さんは食べないんですか?」 聞いてしまってから、何だか変な問いかけをしている気分になって頬が上気した。 若い男の死神は、無表情な顔を一度こちらに向けると 「私は結構です。 誰か給仕をする人間が必要ですし。 それよりも、宜しかったのですか? ユカリさんの最後の晩餐になりますが、このような場所で」 「い、いえ。むしろこんな素敵なお料理を用意してくれていたとは思わなくて……何だかスミマセン、気を使わせちゃって」 執事のような白い手袋をした死神の手が、金属の蓋を外して、最初のスープをテーブルに運んで来る。 湯気をたてた胡桃色のポタージュからは、森の良い香りがした。 きっとマッシュルームのスープだろう。 「お気遣いなさらずに。 本当は、何処かのお店を予約出来たら良かったのですが。 かと言って亡くなる間際に、あまり人目につく行動をとるのも良くありませんので」 「はい、確かにそうですね……」 「ケータリングサービスにはなりましたが、食事をどうぞお楽しみ下さい。 一流のフレンチ店から、特別に取り寄せましたので」 「ありがとうございます。 ふふ、でもこういうのは慣れませんね。 両親が生きていた頃は、高級店で食事をしたことは一度もありませんでしたから」
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加