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「それで。私は何時頃に【死ぬ】予定なのでしょうか? 教えていただいて良いですか。
このような事情とはいえ、先が分からないというのは少し怖いので……」
私が言う。
死神は目顔で軽く頷くと、黒スーツの内ポケットからアンティークな懐中時計を取り出す。
冷たい美貌が離れ視線が動いた隙に、さっと置いてあったスプーンを奪い返した。
食事の間中ずっとあれでは、さすがに気が休まらない。
死神は特に気にした様子もなく。
「午前3時。死因は薬物の過剰摂取による自殺ということになります。
その少し前に迎えが来ますので、連絡が来たらすぐに移動しましょう。
ここだと、無関係なホテル関係者に迷惑をかけてしまいますので」
「そんなに深夜なんですね」
「はい。やはり出来るだけ、人目に付きにくい時間帯が望ましいですので」
「眠ってしまいそうですね。
ふふ、時間迄にもし本当に私が眠ってしまったら、死神さん、貴方が起こしてくれますか?」
「御心配には及びません。
もしも本当に眠ってしまわれたら、そのまま抱えて私が目的地までお運びします」
服の上からだとほっそりした体型のようだが、本当に女ひとりを抱えて運べるのだろうか。
「……むしろ、貴女が眠っていた方が、私の気も休まるでしょうね。
わざわざ知らなくて良いことというのも、この世にはたくさんありますから」
愁いのある、男にしては長い睫毛を伏せ、死神が独り言のようにそう言った。
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